忍たま乱太郎

□恋敵はユリコ
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「その様子だと、上手くいかなかったみたいね」

「胡桃……」

「ほら、そんな悲しい顔しないの!音根には似合わないわよ」



胡桃に励まされ、先程あったことを全て話すと、胡桃は何かを納得したように頷いている。

すると突然音根の腕を掴み引っ張ると、行くよと一言言い、何処かへと歩き出す。



「胡桃?一体どこに」

「滝夜叉丸のところに行くのよ」

「え?滝夜叉丸って、三木ヱ門様と同じ学年の?」



わけがわからないまま連れていかれると、そこには千輪をくるくると回している滝夜叉丸の姿があった。

ちなみに千輪とは、全長10〜30cm程度の中心に穴のあいた金属製の円盤となった物であり、外側に刃が取り付けられている。
輪の中心の穴には人差し指を入れて回転させ、勢いを付けて投げるのが一般的とされている。
他にも、円盤を指で挟んで投げるという方法もあり、射程距離は大体30〜50m程。
その切れ味は30m先にある直径2cmの竹を切断する程だ。



「おお!胡桃じゃないか、それに音根だったか。もしや、私の千輪のうでを見に来たんだな」

「そうそう!音根が滝夜叉丸の千輪の腕前を見たいんだって。それと、滝夜叉丸の凄いところも知りたいんだって」

「え?胡桃?」

「それじゃ、私は用事があるから」



滝夜叉丸と胡桃が知り合いであったことにも驚きだが、訳もわからないまま音根はこの場に残されてしまい、友人である胡桃の考えが全くわからなくなる。

そして残された音根は滝夜叉丸の千輪の技を見せてもらうことになったのだが、その腕前は凄いものでつい拍手をしてしまった。



「凄い!!」

「はっはっはっ!!私が凄いのは千輪だけではないぞ」



そこから滝夜叉丸の自慢話が始まり、最初は真剣に聞いていたものの、長い自慢話に少し疲れてきてしまう。

だが、自分からお願いしたことになってしまっている以上、話を聞かないわけにもいかず困っていると、突然背後から声が聞こえてきた。



「ユリコ、発射ッ!!」



声とともに大きな音が響き渡ると、何かが滝夜叉丸の元へと降ってきた。

一体何が起こったのかと振り返ると、少し離れた距離に三木ヱ門、そして横にはユリコの姿がある。



「危ないだろうが!!一体私に何の恨みがあるんだ!!」

「大有りだ。だが安心しろ、実弾ではないからな」

「実弾じゃなくても当たれば大怪我だろうがッ!!」



怒る滝夜叉丸のことなど気にしていない様子で、大砲は滝夜叉丸目掛けて発射される。

その攻撃から逃げるように滝夜叉丸が逃げていくと、笑いながら三木ヱ門がユリコを連れて音根の元へと歩いてくる。



「あはははっ!!見たか?あの無様に逃げていく滝夜叉丸の姿、傑作だな」



二人の仲が悪いことは、最初の二人の会話で気づいてはいたものの、実弾ではないにしろやりすぎなんじゃないかと苦笑いを浮かべてしまう。



「えっと、やっぱり実弾ではないにしろ危ないですから、敵ではない人に向けるのは……」

「何だ、音根は滝夜叉丸を庇うのか?」

「あの、えっと、庇うとかそういうことではなくてですね」



ただ危ないということを伝えたかっただけなのだが、三木ヱ門はムッとした様子で音根に視線を向けている。

そんな視線でじっと見つめられてしまうと、何も言えず黙ってしまう音根の姿を見て三木ヱ門が口を開いた。



「すまなかった……」

「え?」

「敵ではない者に向けたことは反省する。だが、音根も悪いんだからな!!」



何故そこで自分が関係するのかわからず首を傾げる音根に、三木ヱ門は視線を逸らすと呟くように言葉を漏らした。



「音根が滝夜叉丸と楽しそうに話しているから私は……」

「三木ヱ門くん?」



ゴニョゴニョと一人呟く三木ヱ門が何を言っているのか聞き取れず名前を呼ぶと、ハッとした三木ヱ門の顔が真っ赤に染まる。

すると、何か怒らせてしまったのか、もういいと言い残し、三木ヱ門は音根に背を向け去ってしまう。

そんな三木ヱ門の背を見つめ、何か怒らせるようなことをしただろうかと考えていると、視界にユリコの姿が入る。



「三木ヱ門様、ユリコ忘れてる」



何時も傍に連れているユリコを忘れるなんて、自分は余程三木ヱ門を怒らせたに違いないと思った音根は、兎に角謝らなければと、ユリコを連れて三木ヱ門の後を追いかけた。

ユリコを引きながら何とか追いつくと、音根はユリコを三木ヱ門に渡す。



「わ、私がユリコを忘れるなんて……。ユリコーッ!!すまなかった!!」

「あの、三木ヱ門くん、さっきは――」

「音根、ユリコを連れてきてくれて感謝するぞ。では、私はこれで失礼する」



結局謝ることはできなかったが、何故か何時もの三木ヱ門に戻っており、さっき怒っていたのは何故だったのだろうかと不思議だけが音根の中に残った。

そんな不思議が晴れる日が、この先にはあるのだろうが、それはまだ先のこと。

だが、それより先に知ることになるのは、胡桃が業と三木ヱ門を滝夜叉丸と音根の元に向かわせたことだ。

その理由を聞く音根だが、胡桃は内緒とだけ言いそれ以上は答えてくれない。



「もう、胡桃の意地悪!!」

「まぁまぁ、そう怒らないでよ。それより、あの後なにかあったんじゃない?」

「ええ。何故か三木ヱ門様が怒ってたのよね。それに、ユリコを忘れていっちゃうし」



不思議そうに話す音根の様子をニヤニヤとしながら見る胡桃は、全ての理由を知っている。

だが今は、三木ヱ門の一番はユリコということにしておこうと、静かに音根の話を聞くのだった。



恋敵はユリコ
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