忍たま乱太郎
□歌姫は赤く染まって 前編
3ページ/6ページ
「すっごく美味しい!!」
聞こえた言葉にバッと顔を上げると、幸せそうに頬を緩ませる音根の姿が瞳に映る。
目に滲む涙を指先で掬い取ると、兵助は嬉しそうに頬を染め笑みを浮かべる。
「御馳走様。こんな美味しい豆腐初めて食べたよ」
「それはよかった。もしよかったら、また作るときに食べてもらってもいいかな?」
「勿論だよ」
自分が作った豆腐をこんな風に喜んで食べてくれる人がいる。
それが嬉しくて、音根にもっと喜んでもらえるような豆腐が作れるように、その日から兵助は豆腐作りに更に気合いを入れた。
どんな豆腐なら音根は喜んでくれるだろうかと考えるだけで、いつもの豆腐作りが違って思える。
それから数日、兵助は時間があれば豆腐作りをし、今日も豆腐を作っているとそこに雷蔵がやって来た。
「兵助、今日も豆腐作り?」
「うん。風明さんに喜んでもらえるような豆腐を作りたくて」
兵助が楽しそうに豆腐を作るのは何時ものことなのだが、最近はその何時もとは違うようだ。
豆腐を作る姿を眺めながら、雷蔵は思ったことを口にする。
「やっぱり兵助、風明さんに恋してるよ」
その言葉で、豆腐を作る兵助の手が止まると顔を伏せたまま黙ってしまう。
怒らせたんだろうかと顔を覗き込めば、その顔は真っ赤に染まっていた。
「ばッ! み、見るな!!」
「兵助、結構顔に出やすいんだね」
慌てて顔を腕で隠す兵助の姿は、間違いなく恋をした男の顔だった。
だが、雷蔵としては意外だった。
自分が見たり聞いたりした音根のイメージからは、男女問わず良い印象と言える人物ではないからだ。
最初に声を掛けてきたのが音根からだと兵助に聞いたときも、正直驚いた。
もしかしたら、兵助が見ている音根と皆が見ている音根は違うのかもしれない。
「まぁ頑張りなよ」
「ああ。ありがとう」
それだけ言い残し雷蔵が去っていくと、兵助は止めていた手を動かし作業の続きをする。
「よし! これで完成だ。この豆腐ならきっと喜んでもらえるはずだ」
ようやく音根に喜んでもらえそうな豆腐が完成すると、今日は自分が食べ、明日音根に出しても大丈夫そうかを判断する。
そして、味も見た目も問題ないことがわかると、兵助は明日の為に同じ材料を揃えようと町に向かう。
町で全ての材料を手に入れ忍術学園に戻ると、明日を楽しみに胸を高鳴らせながら翌日を迎えた。
「完成してよかったじゃないか」
「うん! それで、よかったら雷蔵にも食べてもらいたいんだけど」
「僕かい? でも、風明さんに喜んでほしくて作ってたんじゃ……」
「そうなんだけど、雷蔵にも色々と世話になったから、是非食べてもらいたいんだ」
笑みを浮かべながら言われたら断るわけにもいかず、雷蔵も兵助の豆腐を食べることに決まった。
そして、もう一人肝心な人物を誘いたいのだが、やはり食堂にはその人物の姿はない。