忍たま乱太郎
□歌姫は赤く染まって 前編
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「喜んでもらえるといいんだけど」
「っ、凄い!! もしかしてこれって桜?」
「うん、そうなんだ」
瞳をキラキラと輝かせながら、皿に載せられた、ほんのり桜色をした豆腐を見る音根の笑顔に兵助は頬を緩ませた。
すると、ガヤガヤとした声が食堂へと近づいてくる。
「待ってたよ。もう豆腐はできてるから皆も座って」
食堂にやって来たのは兵助と同じ五年生達であり、皆の視線が音根に向けられた。
雷蔵は知っているが他の皆は知らないため、皆兵助に音根のことを聞く。
「兵助、あの子は?」
「ああ。くの一の風明さんだよ」
「おっほー! 豆腐うまそうだなー」
五年生が来たところで食堂は騒がしくなり、兵助は取り敢えず皆に座ってもらうと音根の紹介をする。
だが、先程から音根は顔を伏せ口を開こうとしない。
心配した兵助が声をかけようとしたとき、先に口を開いたのは、兵助と同じ五年い組の尾浜 勘右衛門だった。
「風明さんって、歌が上手いって言われてるよね?」
「あぁ、思い出した。風明 音根って、変わってるって言われてる子だろ?」
「雷蔵っ!!」
勘右衛門の言葉で思い出したらしく、五年ろ組の鉢屋 三郎が言った言葉に隣に座っていた雷蔵が怒る。
三郎の代わりに雷蔵が音根に謝るが、やはり反応はなく、その場の空気が重くなるのを感じた兵助がは、兎に角誤解を解いておかなければと皆に説明をする。
「えっと、その事なんだけどさ。風明さん、本を読んでるときは周りの音とか声が聞こえなくなっちゃうみたいだから、多分無視されたって思った人達は風明さんが本を読んでるときに声をかけたんじゃないかな?」
兵助の言葉で、勘右衛門と五年ろ組の竹谷 八左ヱ門が納得する中、何故か雷蔵と三郎は黙っていた。
「私と雷蔵は、その本を読んでいないときに声をかけて無視されたんだが」
「え?」
思いもしない三郎の言葉に兵助が雷蔵に視線を向ける。
だが、三郎の言った言葉に否定をしないところを見ると、どうやら本当のようだ。
そんな重い空気が再び流れる中、音根は無言のまま立ち上がるとその場から逃げるように走り去ってしまう。
「ごめん皆。俺、風明さんを追いかけるから、皆は豆腐を食べたら部屋に戻ってくれ」
それだけ伝えると、兵助は食堂を飛び出し音根の後を追う。
すでに姿は見えなくなっており、くの一の長屋に戻ってしまったのだろうかと思いながらも校庭まで来てしまっていた兵助の視界の端に、桜色の何かが映り込む。
もしかしてと思い近づいてみると、やはりそこにいたのは音根だった。