忍たま乱太郎
□歌姫は赤く染まって 前編
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「風明さんなら、今日も人がいなくなった頃に食べに来るんじゃないかな?」
周りを気にする兵助に気づいた雷蔵が声をかけると、やっぱりそうだよなと朝食を食べ始める。
早く誘いたい気持ちを抑え、音根が必ずいる時間のあの場所へ行こうと決め、その時間が来るのを待つ。
そしてそれから時間は過ぎ、ようやくその時間がやって来ると、あの場所へと向かう。
忍たまとくの一を隔てている塀を覗けば、そこにはやはり本を読んでいる音根の姿があった。
「風明さん」
声をかけるが返事はなく、もう一度呼んでみるがやはり返事はない。
その時、前に雷蔵が食堂で話していた、声をかけても無視をされるという言葉が頭を過る。
「風明さん、何か俺、怒らせるようなことをしたかな?」
やはり返事は返ってこない。
だが、折角音根の為に考えた豆腐を、本人に食べてもらえなければ意味がないと思いもう一度声をかけてみようと口を開く。
すると、声を発するのと同時に本を閉じた音根が立ち上がり、驚いた兵助は忍たまの敷地に落ちてしまう。
「大丈夫?」
上から降ってきた言葉に顔を上げると、塀の上から兵助を見下ろす音根の姿があった。
これはデジャブというものだろう。
音根は忍たまの敷地内に降りると、兵助に手を差し伸べる。
その手に掴まり立ち上がると、音根に礼を伝え、装束についた砂埃を手で払う。
「ふふ、あなたってよく転ぶのね」
「よく転ぶって、半分は風明さんのせいだからね」
「え? 私の?」
何故といった様子で首を傾げる音根に、何度も呼んだのに無視したじゃないかと伝えると、音根は申し訳なさそうに謝った。
まさか謝られるとは思わず、取り敢えず何故無視したのかを聞くと、どうやら本に集中していて呼ばれていたことに気づかなかったようだ。
「私、昔から本を読んでるときは周りの音とか声が聞こえなくなっちゃうから、よく無視してるって嫌われちゃうんだよね」
「そうだったのか」
どうやら、皆が無視だと思っていたことは、本を読んでいるときに掛けた言葉だったのだろうと納得できた。
そして納得したところで、音根に本題を話す。
「今から豆腐を作るから、少ししたら食堂に来てもらってもいいかな? 是非食べてもらいたいんだ」
「うん、勿論だよ。楽しみにしてるね」
音根と別れたあと、早速食堂に向かった兵助は豆腐を作り始め、丁度出来上がる頃に音根が食堂にやって来た。
もう少しで出来上がるからと座って待っていてもらうように伝え、完成した豆腐を皿に載せ運ぶ。