薄桜鬼

□心からの幸せ
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私はいつも、そっと新選組の屯所を覗いていた。
門のところから中を覗き、今日はあの人の姿が見えるだろうかと思っていると、掃き掃除をする一人の隊士の姿。

ここ最近入隊した人なのか、よく見かける。
主に雑用をしているみたいで、時々隊士の幹部と仲良く話している姿も見る。

でもそんなことはいいの。
私が想っているお方はただ一人、新選組副長、土方 歳三様だけだから。

そんなことを思っていると、屯所から隊士達が出てくる。
その中には土方様の姿もあり、私は鼓動を高鳴らせた。

だが、何故かあの掃き掃除をしている隊士と何やら話している。
それも、今まで見たことのない優しい表情を浮かべながら。

胸がチクリと痛む。
男の人相手に嫉妬なんてしてもどうしようもないのに。
今までだって土方様が他の隊士と話していることはあった。
でも、こんな感情にはならなかった。

もしかしたら、あの隊士が女の様に思えてしまうからかもしれない。
だが、そんなことあるはずがない。
新選組には男の隊士しかいないのだから。
それに、女を入れたところで戦力になるはずもない。



「皆さんお気をつけて」



声に視線を向ければ、見回りに行くため隊士達がこちらへと近づいてくる。
私は慌てて見つからないように隠れると、浅葱色の背が見えなくなるまで見詰めた。

今日はついてる。
土方様を見ることができたのだから。

これで用事も済んだことだし帰ろうとしたとき話し声が聞こえ、門からそっと中を覗く。



「なあ千鶴、今度町で祭りがあんだけど行かねーか?」

「お祭り!あ、でも、土方さん達に許可を取ったほうがいいんじゃないかな」



どうやら新人隊士は千鶴さんというようだ。
一緒に話しているのは確か、新選組幹部の一人、藤堂 平助さん。

藤堂さんは見回りをしているところを見かけたことがあるけど、とても明るくて人懐っこそうな人だと思った。

千鶴さんと話している藤堂さんは「少し行くだけだから大丈夫だって。左之さんや新八っつぁんも一緒だしさ」と説得している。



「うーん。三人が一緒なら……」

「やったぜ!んじゃ、決まりだな。約束だからな」



普段通りの藤堂さん、の筈なのに、何故か腑に落ちない。
千鶴さんが行くと決まったときのあの表情。
何より、藤堂さんもさっきの土方様のように優しい目を千鶴さんに向けていた。

もし、千鶴さんという隊士が女の方だったら。
そんなありもしないようなことを考えてしまう。
でも、本当に無いと言い切れるだろうか。

もしかしたらという考えが消えず、もし千鶴さんという方が女なら、土方様は女の方といつも一緒ということになる。
これは事実を確認しなければと思うものの、その手段はない。

丁度藤堂さんも屯所内に入ってしまい、そこにいるのは千鶴さんだけ。
声をかけるには絶好のタイミングだが、千鶴さんは男の着物を着ている。

それはつまり女の方だったとすれば、隠しているということになる。
そんな相手に尋ねたところで正直に答えてもらえるとは思えない。



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