忍たま乱太郎

□俺が笑えば君は咲く 後編
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翌日、勘衛右門(かんえもん)は町に行く服装に着替えると、学園の門の前で音根を待っていた。

緊張した様子の勘衛右門は落ち着きがなく、先程からそわそわとしている。



「お待たせ」



そこにやって来たのは、今日一緒に町に出掛ける相手であり、勘衛右門がひそかに想いを寄せる相手、くのたまの音根だ。

凄く可愛いわけでも美人な訳でもないのだが、沢山の忍たまから人気があり、人を惹き付ける魅力があるのだろう。

そんな音根が今日は町に出掛けるということもあり、着物姿で綺麗に化粧までされている。



「じゃあ行こうか。尾浜(おはま)くん?」

「ッ……!?う、うん」



つい見とれてしまっていた勘衛右門も音根の後に続き、事務員の小松田(こまつだ) 秀作 (しゅうさく)に外出届を出し二人町へと向かう。


その途中、何か話さなければと話題を探すが、今まで音根と話したことなど数えきれるほどしかなく、そう簡単に話題など思い付くはずがない。

このままだと、自分と出掛けても楽しくないと思われてしまうかもしれないと一人悩んでいると、不意に袖を軽く引っ張られ視線を向ける。

すると、心配そうに眉を寄せる音根の姿が瞳に映った。



「尾浜くん、どうかしたの?何だか悩んでたみたいだけど」

「いや、その……。風明さん、俺といても楽しくないよね。兵助(へいすけ)も誘えばよかったかな」



苦笑いを浮かべながら思ったことを口にしてしまい、こんなことを言ったら尚更楽しくないじゃないかと自分が言ったことに後悔する。

自分で誘っておいてこんなこと言うなんて、きっと怒らせてしまったに違いない。
そう思っていたのに、音根は静かに首を横に振った。



「そんなことないよ。私、尾浜くんともっと話せたらなって思ってたから、誘ってくれたとき嬉しかったよ」

「風明さん……」



ふわりと笑みを浮かべる音根は無理をしているわけでもなく、それは心配でも気遣いでもない言葉なんだと思うと、悩んでいた自分が恥ずかしくなる。



「俺も、もっと風明さんと話して、仲良くなりたいって思ってるよ」

「じゃあ、先ずは呼び方から変えようか!」



そんな話をしていたら、いつの間にか言葉は次から次に溢れだし、気づけば町に着いてしまっていた。

町までの道はこんなに短かっただろうかと思ってしまうほど、音根と話すのは楽しくて、もっと町が遠ければいいのになんて思ってしまう。



「勘右衛門くん、少しあの店を見たいんだけどいいかな?」

「勿論いいよ」



町に来る途中で決めたことだが、名前を呼ばれるのは何だか恥ずかしくて、頬を掻き目を逸らしてしまう。

名前なんて呼ばれなれてるはずなのに、友達と想い人でこれほどまでに変わるものなのかと慣れない感情に戸惑ってしまう。



「このお店、前に兵助と来た時に寄ったんだけど、可愛い巾着とかが売ってるんだよ」



こうしていろんなお店を回り、少し休憩を取るために団子屋へと寄る。

好きな女の子と一緒にいられるなんて凄く幸せなことなのだが、勘衛右門には少し気になっていることがあった。



「お団子美味しかったね!」

「うん、そうだね」



団子屋を出て帰ろうとしたとき、音根はあっと声を上げると、最後に寄りたい場所があると言い、二人その場所へと向かう。

だが、その店を目にした瞬間、勘衛右門は嫌な予感だした。



「ここって……」

「お豆腐屋さんだよ。ここのお豆腐は兵助が凄く美味しいって話しててね」



そう、今日一日ずっと気になっていたのは、ちょくちょく会話に出てくる兵助の存在だ。

音根にとって兵助は仲のいい友達であり、勘衛右門は今日ようやく名前で呼び合うようになったばかり。
そんな自分と兵助を比べたりするのは違うと思っていても、好きな女の子の口から男の名、それも一人の人物の名前しか出ないのは正直嫌だ。



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