忍たま乱太郎
□恋敵はユリコ
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今日も音根の想い人は、愛しのあの人を連れて歩いていた。
どこに行くのも一緒で、正に理想のカップルであり、そこに音根の入り込む隙など一切ない。
「はぁ……。初恋は実らないって本当ね」
「音根、あんたそれ本気で言ってんの?」
「ええ、勿論よ」
真顔で答える音根に、呆れながら溜息を吐くのは、音根と同じくの一教室のくのたまであり音根と同室の胡桃(くるみ)だ。
くの一と忍たまを隔てる塀からひょっこり覗く二人の視線の先には、忍たま四年生の田村 三木ヱ門(たむら みきえもん)とユリコの姿がある。
それだけ聞けば、想い人には恋人がいたのだと思われるだろうが、そうではない。
「よく見なさい!!あれは石火矢よ!?」
「わかってるわよ。でもね、恋を前にしては、人種なんて関係ないのよ」
「人種の前に石火矢だから!!武器だから!!」
因みに石火矢とは、昔の大砲であり、火薬の力で小石や鉄片を飛ばす武器のことをいう。
その大砲に三木ヱ門はユリコと名前をつけている。
ユリコ以外にも複数ある武器の中でも、とくにユリコとは毎日一緒にいる。
そして今日も三木ヱ門は、紐をつけたユリコを引きながら何処かへと行ってしまう。
「三木ヱ門様、行っちゃった……」
「様って……。三木ヱ門くんと私達は年が同じでしょ。本当に音根って、顔良し、性格良し、成績優秀で皆からモテるのに、なんか人とズレてるよね」
「そうかしら?」
小首を傾げる音根だが、石火矢を恋のライバルとして考えている時点で十分人としてズレており変わっている。
そもそもライバルどころか敗北したと本人は思っているのだから、見ている胡桃からすれば呆れて溜息だって出てしまう。
「まぁ、その恋を諦めるかどうかは音根次第だから、私がとやかく言えないけどさ。石火矢は石火矢なんだから」
「でも、三木ヱ門様はユリコさんを大切にしてるから、私に入る隙なんて……」
これ以上普通の言葉を投げかけたところで音根にとってユリコは人と同じ扱いなのだと思った胡桃は、なら自分もユリコを人として見て答えようと口を開く。
もし好きな人に想い人がいたとしても、くの一なら奪い取るくらいのことをしなくてはいけない。
今はくのたまの二人だが、いつか、くの一として仕事をする際には、こういった相手を落とすくらいできなくてはならない。
それを伝えると、諦めていた瞳にやる気の輝きを宿し、音根は胡桃に礼を伝えると、三木ヱ門の去っていった方へと走っていってしまう。