ONE PIECE
□黒い鳥
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ハルは今日、アップルパイを作るために林檎を買いに来ていた。
少し多目に林檎を買い帰り道を歩いていると、通り過ぎたお店に美味しそうな桃が売られているのが見える。
今度作るときは桃を使ったスイーツを作ろうかなと考えながら歩いていると、前から歩いてくる人に気づかずぶつかってしまう。
「ッ……すみません」
「どこ見てんだよ嬢ちゃん」
何だか見るからに柄の悪そうな人にぶつかってしまい、周りを歩く人は皆見て見ぬ振りで通り過ぎていく。
頭を下げ謝罪するが、男の手がハルの顎を掴み自分へと向かせる。
「なかなか可愛い顔じゃねェか」
ニヤリと口角を上げ笑みを浮かべる男に恐怖を感じ、その場から逃げだした。
後ろを振り返りもせず必死に走り、人気のない場所まで来てしまったところで躓き転んでしまう。
すると、追い付いた男がゆっくりこちらに近付いてくる。
もう駄目だと覚悟したその時、ハルの目の前に真っ黒な何かが立ち塞がっていた。
「なんだお前……ッ!!」
男が走り去る音が聞こえたが、いったい何がおきたのかわからず顔を上げる。
すると、自分の目の前にある真っ黒な物が羽だとわかり、そしてそれを羽織っているのは、自分よりも遥かに大きな人物であることに気づく。
その人はハルへと一瞬視線を向けたが、何を言うこともなく背を向け、その場を去ってしまおうとする。
その背に声をかけようとするが、あまりの驚きに声を出すことができず、ただその場に座り込み、その背が見えなくなるまで見詰めていた。
男性が去った後一人残ったハルは震えが収まると家へと帰っていく。
なんとか家に着くと、早速買ってきた林檎でアップルパイを作るが、その間もさっきの男性のことを考えていた。
男に追われ必死に逃げていたら、突然目の前に現れた男性に助けられ、その背の高さと見た目に驚いてしまい声を出すこともできなかった。
「お礼、言えなかったなぁ」
あの男性は助けてくれたというのに、お礼を言えなかった自分に後悔する。
視線が合った時に声を出そうとしたが、出すことができなかった。
驚いたというのもあったが、黒い羽を纏った大きな鳥のような男性に目を奪われてしまっていたのだ。
その日ハルは男性のことを考えながら、また会えないかなと一人呟いた。