ナンバカ
□蓋に意味はないと知る
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男ばかりのこの刑務所で、ここ、5舎8房には数少ない女性の看守がいた。
「あ、あの!」
「ん?どうしたのリャン」
そして、そんな女看守に恋した男が一人、この8房にいた。
「えっと……今から筋トレをするので見ていてもらえませんか!」
「ええ、構わないわよ」
筋トレはリャンが毎日していることではあるものの、この女看守、巫兎を前にしては筋トレはただ一緒にいる為の口実でしかない。
8房の鍵を開け入ってきた巫兎の前でいつも通り筋トレを始めるリャンだが、見ていられると視線が気になり大量の汗が流れ出る。
そんなリャンの気持ちを知っている同じ房のチィーは、床に寝転がりながらニヤニヤとリャンを見ている。
そしてこの8房にはもう一人、ウパという囚人がいるのだが、その囚人はというと、暑苦しいですねと眉を寄せ、不快そうな表情を浮かべていた。
そんな二人のことなど、今のリャンの視界に入るはずもなく、ただ巫兎を意識しないようにと筋トレをもくもくと続けている。
それから暫くして、汗だくになったリャンはバタリと床に倒れ、そのまま意識を手放した。
そして、後頭部に柔らかな感触を感じ瞼を開くと、今の自分の状況に鼓動が大きく音をたてる。
「おはよう、寝坊助さん」
クスクスと笑みを溢しながら言う巫兎の笑顔は眩しいが、それよりも気にするべきことが今のリャンにはある。
それは、巫兎に膝枕をされているというこの状況だ。
「よかったな、リャン、巫兎ちゃんに膝枕してもらえて」
「ッ……!」
からかうように言うチィーをキッと睨むが、すでに真っ赤に染まった顔で睨まれても全く怖くもない。
「リャン、顔真っ赤よ!?大丈夫?」
「平気です!いや、平気ではないかもしれません……」
「もう、こんなになるまで筋トレするからよ!今日は安静にしてなさい!」
巫兎はそれだけ言うと他の房の見回りに行ってしまい、リャンは寂しさを感じながらもその背を見送り言われた通り布団を敷き横になる。
すると視界の恥に、ニヤニヤと笑みを浮かべるチィーの姿が映り込む。