ナンバカ

□大和撫子も恋をする
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13舎の看守である巫兎は、何処の舎でも人気である。

見た目が美しいというのもあるのだが、その美しさは外見だけに留まらず、内面にも現れている。

仕事もしっかりこなし、誰にでも優しく、そしておしとやか、惚れない理由などない程の完璧な大和撫子。

そんな巫兎は他の看守とは違い、服装は和服であり、普段から和服で身を纏っている。

その理由は、和服以外のものを今までに着たことがないため、看守服を着せてしまうと逆に行動力が低下してしまうからだ。

最初はそんな巫兎に、看守も囚人も驚いてはいたが、今ではすっかり馴染んでいた。



「巫兎、すまないがお茶を淹れてはもらえないか」

「はい、わかりました」



巫兎は、大和の言葉に柔らかな笑みを浮かべるとお茶の用意を始めるが、その動きにすら誰もが見いってしまう。

流れるように滑らかな動作、その一つ一つの動きに無駄はなく、時間の感覚すらも忘れてしまいそうになる。



「どうぞ」

「ああ、すまないな」



大和は、目の前に置かれたお茶を手に取ると、一気に飲み干し美味いと口にする。

何故か大和だけは巫兎の魅力に目を奪われるといったことはなく、こうして普通に彼女と接している。

他の看守や囚人なら、巫兎に声をかけることすら躊躇ってしまうというのにだ。



「主任様に星太郎様、お二人はお茶はいかがなさいますか?」

「い、いえ!巫兎さんにお茶を淹れていただくなんてとんでもないです!!」

「俺も遠慮させてもらう」



それは星太郎やあの一ですら例外ではなく、巫兎には皆が簡単に近づけないのだ。

別次元の人間、大袈裟に聞こえるかもしれないが、皆の中では女神のような存在となっている。

だが、そんな女神も鈍い男には他の人と変わらないらしく、大和だけはこの南波刑務所で唯一巫兎と普通に話すことができる。



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