ナンバカ
□今はこのままで
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とある刑務所に、新しい囚人が収容された。
名前はジューゴといい、同じ房には巫兎という女の囚人も収容されていたのだが、ジューゴが同じ房に入って3日、二人は一言も口を利いていない。
だが、ある時巫兎がジューゴへと視線を向けると、あるものが瞳に映り、初めて口を開いた。
「アナタのそれって何?ここでつけられたの?見たことないけど」
ただの興味本意で尋ねただけなのだが、ジューゴは腕につけられた枷に手で触れると、寝ている間に付けられたと口にする。
何のためにと尋ねるが、ジューゴはわからないとしか答えない。
「外さないの?」
「外せないんだ、この枷は……。こんな枷を俺につけた男、キズの男を絶対に探し出す」
とうやらキズの男という人物に付けられたようだが、何故か巫兎はこの時違和感を感じた。
こんな枷をつけたキズの男に怒りを感じているような言い方だというのに、今のジューゴは嬉しそうに見える。
3日一緒にいて、巫兎は初めてジューゴと話したが、何を考えているのかわからないジューゴに巫兎は興味が湧く。
「ジューゴって、なんか変わってるね」
「そうか?」
「うん。でも、一緒にいたら飽きなそう!」
ニッと笑みを浮かべると、ジューゴは一瞬驚いた表情を見せたが、その表情は柔らかな笑みへと変わる。
房の中だというのに、二人は笑みを浮かべ、そしてこの時から、巫兎とジューゴが話すことは多くなっていった。
「ねぇ、そのキズの男について何かわかってることとかないの?」
「なにも……。ただ見えたんだ、その男の項にキズがあるのを」
首にキズ、それだけの情報でこの広い世界を探すにも限界がある。
他に何か手がかりがあればいいのだが、これまでの手がかりはゼロだという。
「でも、ジューゴはどうやってその男を探してるの?」
「そんなの、脱獄していろんな刑務所に行く以外に方法ねーだろ」
「簡単に言ってくれるね……。私達囚人は脱獄ができないからここにいるんだけどね」
看守が話しているのを聞いたことがあるため知っているが、ジューゴは脱獄の天才で、どんな鍵でも開けてしまうらしい。
実際に目にしたことはないが、きっといつかこの刑務所からもジューゴは脱獄をするのだろう。
そう思うと、なんだか寂しいような気持ちになるのはきっと、ジューゴといることがいつの間にか楽しいと感じ始めているからなのかもしれない。
そして、その時は直ぐにやって来た。