ナンバカ
□その香りは恋の予感
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ここ、南波刑務所の喫煙所では、今日も煙草をプカプカと吸っている人物が休憩をしていた。
「うわ〜、今日も平気な顔して何本も煙草吸ってる人がいるよ」
喫煙所へ入ってきたこの女は、5舎看守の巫兎だ。
先に休憩所に来て煙草を吸っていた看守、13舎主任看守の双六 一を見るなり、第一声がこれだ。
「ああ?相変わらずうっせー奴だな」
気にせず吸い続ける一の隣に巫兎は座ると、まぁねといいながら自分も煙草を吸い始める。
二人の違う銘柄の煙草の匂いが部屋で交ざり合い、お互いがお互いを睨み付ける。
「アンタの煙草、臭いんだけど」
「は?それはこっちの台詞だ」
バチバチと二人の間に火花が散るが、その原因となるのは勿論二人の煙草だ。
お互い煙草好きなのに何故喧嘩になるのか、その理由は、お互いの銘柄が関係してくる。
「私はその煙草の臭い嫌いなんだけど」
「ああ?んなの俺も一緒だっつの」
お互いが吸っている煙草は、お互いが嫌いな煙草の銘柄であり、休憩時間が重なると何時もこんな空気が喫煙所に広がっていた。
喫煙所はここにしかなく、どちらかが辞めるか、若しくは二人辞めるかしか解決方法はない。
だが、この二人がその2沢のどちらを選ぶわけもなく、顔を合わせる度にお前が辞めろと言い合っている。
「はぁ〜、これだからヘビースモーカーは」
「人のこと言えんのかよ?お前だってヘビースモーカーだろうが」
こんな会話を続けている間に休憩時間は終わり、お互い嫌な空気を吸って職務へ戻る。
そして、今日は運が悪いことに、巫兎は今13舎に向かっていた。
「何でさっきまで会ってた奴のところにいかなきゃいけないのよ!!」
5舎主任の猿門に頼まれ、最初は断固として拒否していたのだが、仕事に私情を持ち込むんじゃねぇと叱られ、渋々巫兎は13舎に書類を届けに向かっている。
1日に二度も一の顔を見ることになるとは思わず、巫兎はため息を落とす。