ナンバカ
□手の温もりを確かに
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今日から5舎8房に入ることになった囚人、囚人番号211番の巫兎は、チャイニーズばかりの5舎では珍しい、日本の女だった。
「こんな男しかいない場所に女って嬉しいけど、問題あるんじゃないの?」
「ああ、俺もそう思ったんだが、本部が決めたことだ。いいかてめぇら、面倒だけは起こすんじゃねぇぞ、特に71番!!」
「なんで俺だけ!?」
5舎主任看守部長である悟空 猿門が連れてきた女の囚人に、囚人番号71番のチィーだけが何故か注意されるが、それもそのはずだ。
8房の囚人はチィー以外に二人しかおらず、一人は、囚人番号二番のリャン。
リャンは己を鍛えることばかりを考えているため、毎日の鍛練に加え、房に戻ったあとも筋トレをしているほどであり、強い相手にしか興味がない。
そしてもう一人の囚人は、囚人番号58のウパであり、一番最年少の囚人だ。
そんな二人が女の囚人に手を出す可能性など0に近い。
だが、71番のチィーは年齢からいえば大人の男であり、5舎看守の八戒 猪里とは、大人の絵本を内緒で貸し借りしている仲でもある。
そんなチィーが一番巫兎に手を出す可能性が高いのだ。
チィーに注意をした後、悟空が職務に戻ってしまうと、房に残った囚人達は普段自分達がしていることに取りかかる。
リャンは筋トレ、ウパはサボテンに水をあげているのだが、とくにすることのない巫兎は何をしたらいいのかわからず、房の隅で正座をする。
ただじっとしているだけだと退屈になり、ぼーっとしていると、チィーが巫兎に声をかけた。
「そんなどこで座ってても暇じゃない?」
「はい、そうてすね。でも、何もすることがないので」
苦笑いを浮かべながら話す巫兎に、なら俺が話し相手になろうか、なんて甘い言葉をかけたチィーは、何故か床に叩きつけられていた。
チィーの背後にはリャンとウパの姿があり、まるでゴミでも見るかのような視線をチィーに向けている。
「アナタという人は、猿門さんに言われたばかりだというのに、もう彼女に手をだそう手してるんですか?」
「呆れた奴だな」
「いきなり頭上から踵落としはなくない!?てか俺、今普通に話してただけだよね!?」
それでもリャンとウパの疑いの眼差しが消えることがないのは、日頃の行いが悪いからだろう。
巫兎は頭を押さえるチィーを心配し、大丈夫ですかと声をかけるが、何時ものことだから平気だよとチィーは苦笑いを浮かべる。