366日の奇跡

□雪解けと和解
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結局、俺は5月を待たずに登校することになった。
槙村と買い物に行った日の夜に、何かと親身になってくれていた橘からメールがあったのだ。

週明けの月曜日に大事な集会があるからという理由で、俺の悠々自適な引きこもり生活は、三日間の入院を含めて一週間程で終止符を打つことになった。

「ねえねえ、これであってる?」
「ん?なんか桁数が……、ここの計算は8桁の数字になるんだぞ!」
「え、うそっ。二桁足りないじゃん!」
「しょうがないな。これは俺がやってやるよ!日向はスピーチ原稿を仕上げとけよ!」
「え、マジで?やった!鈴音(れおん)、愛してるっ」

髪を切ってから初めての登校で、俺は槙村や橘からのアドバイス通りコンタクトじゃなく眼鏡を掛けて登校した。
前の眼鏡と違ってシャープでクールな印象の眼鏡なんだけど、これを掛けとくと生徒会長らしく見えるんだそうだ。

髪を切ってから視覚的な意味合いでも周りがよく見えるようになったし、以前よりは周りから注目されるようになった気がする。

週明けの緊急集会で、

『平成×年4月24日、10時13分。不当に解雇された羽柴翼を生徒会長に戻し、現生徒会長の鷹司要をリコールする』

全校生徒の前で、そう宣言した鷹司。
そんな鷹司のお蔭で俺は生徒会長に復帰して、戻って来てくれた他のメンバー達と一緒に生徒会の仕事を熟している。

『羽柴っ、本当にごめん!!おれ……、俺、お前が一人で仕事してたなんてちっとも知らなくてっっ』
『ちょ、山倉。もういいから頭を上げてくれ』

あの後、俺をリコールした山倉からは土下座で謝られ、

『俺もごめんっ。羽柴と同じクラスだから羽柴が一人で頑張ってるの知ってたのに、俺、どうしても本当のことが言えなくて……』
『いや、俺こそ悪かった。皆、総選挙で選ばれたメンバーなのに、執行部から追い出すようなことしてさ』

他のメンバーも謝ってくれた。
椿野や日向は俺がリコールされたことを間違ったこととの自覚はあったけど、山倉に嫌われたくなくて言い出せなかったようだ。

S組に編入した山倉はすっかりS組の椿野達と打ち解けていて、あんなに静かだった生徒会室は笑い声で溢れている。
皆が楽しそうに仕事をしているのを見るとホッとして、俺も戻って来れてよかったとそう思えた。

結局、生徒会長に戻ったことで槙村の部屋からまた一人部屋に戻ったんだけど、槙村はいつでも泊まりに来いと言ってくれて。

「山倉、日向を甘やかすな。日向、スピーチはもう殆ど完成してるだろ。自分でやれ」

鷹司はそう言って、日向に5月の予算に関する書類を突き返した。

「えー、もしかして最初からやり直し?鷹司の鬼っ」
「ほざけ。電卓を使ってるんだ。簡単だろ?つか、普通はそんな簡単な計算で計算間違いなんかしないっつーの」
「かいちょー、会長がいじめるー!」
「ちょ。お前なあ!」

生徒会長に復帰した俺は、まずは改めて役員の割り当てから始めた。
副会長は以前と同じ椿野で、庶務の二人も以前と同じだ。

『生徒会長の権限をもって、2年S組の鷹司要を書記に任命する』

次に鷹司の真似をして、全校生徒の前で鷹司を書記に戻した。

生徒会長にそんな権限があるのかどうかは不明だが、鷹司はもともと総選挙で選ばれたメンバーだから問題ないだろう。
全校生徒の前で宣言したのは改めて書記を打診しても断られそうな気がしたからで、俺がいない間に書記をしてくれていた山倉には少し不安だった会計を日向と一緒にして貰うことにして、これで完璧な生徒会執行部の出来上がりだ。

もともと生徒会長と副会長以外は二人の割り当ても可能で、会計が二人いても何も問題はない。
これに一年生から一人、生徒会長補佐を任命して、それでも足りない場合は学年は関係なく、補佐としていくらでも補充が出来る。

「羽柴、お疲れ様。一息入れなよ」
「……ん?ああ、椿野か。悪い、ありがとう」

一年生の加入は新歓後を予定していて、俺達、新生生徒会は一丸となり、改めて生徒会主催の新入生歓迎会の仕事に取り掛かったのだった。


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