ピーチメルバの苦い夢

□淡い共感
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彼女、社は高校入学目前のある日ドイツからやって来た。暮人兄さん曰く柊の遠縁だそうだ。
同い年にしては随分大人びていてどこか冷たくて、まさに柊の人間だった。
真っ白な髪と海の目が僕とおなじで多分彼女もそれに気づいて微笑んだのだと思う。

社は手短に挨拶を済ませると寝る、とだけ言って自室にこもった。
言葉を交わす機会も大してなく、結局気づけばもう入学式だった。

初登校の朝も彼女は寝っぱなしで起きる様子もないので僕は置いてきてしまった。
ホームルームが始まりしばらくすると遠慮なく扉があいて彼女が入室した。
「すみません先生、まだ時差に慣れなくて」
謝る気もなさそうに、無愛想に告げる。
「ええ、ええ、そうでしょう。どうか無理はなさらず」
「ところで席はどこでしょうか」
教師のへりくだった態度に疑問を示す生徒の中社は面倒くさそうに遮った。
「ああ…申し訳ありません。その窓際の席が」
「深夜の隣でもいいですか?日本での勝手がまだよくわかってないので、彼が近くにいると助かるのですが」
「もちろんです!さあ、どうぞ」
正直驚いた。
彼女が僕を頼る素振りを見せたことは1度もない。
担任が社・リデルという人物の説明をしている中彼女は躊躇わず教室のど真ん中を突っ切って僕の隣に座った。
「色々よろしく」
一瞥し、はじめて会ったあの日と同じ微笑みでそう言った。
「…こちらこそ」

僕が一瀬グレンに話しかけていても社はまた一瞥するだけで興味なさげにあくびをかましていた。
教師の話にも僕らの話にも興味なさげにしていた彼女だが真昼のスピーチだけは違った。
彼女はずっと真昼を見ていた。
そういえば家でも二人は話していた気がする。
それもにこやかに。

「…ねえ、真昼と仲良かったの?」
社は僕をちらりと見てまた真昼に視線を向ける。
「ええ。子供のころは特にね」
「ふうん…」
少し苦しそうに目をふせ、悲しそうにまた彼女を見つめた。
その視線は友達に向けらるそれにしてはいささか艶やかすぎる気がした。


「深夜、私帰り道わからないから一緒に帰らない?」
「は?」
間抜けた僕の返答にため息をつかれた。
「わからなくて当たり前でしょう?ついこの間来たばかりなのよ」
「朝は?」
「送ってもらった」
やっぱり今朝も起こすべきだった。
「車呼べばいいじゃん」
「歩きたいのよ」
「わかったわかった。ほら、帰ろ」
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