ピーチメルバの苦い夢

□脆い思い
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翌朝今日も徒歩を所望された。
「なんでわざわざ日本に来たの?」
社はスピードを落とすわけでも振り向くわけでもなく口を開く。
「ご不満でも?」
「いやそういうわけじゃないけど、ただの興味」
少し間をおいて彼女はわずかに振り返った。
「生き残るため」
「…どういうこと?」
また彼女は前を向いて少し考えるそぶりをみせた。
「私も細かいことはなにも知らない。…ただ、お父さんに急に言われたの。それだけ」
「…よくわからないね」
「ええ。でもキーパーソンは柊真昼と一瀬グレン、って言われたわ」
あの二人なら何があってもおかしくないかもしれない。
それ以上彼女が教えてくれることはなかった。

「ねえグレン」
「…」
「聞こえてるでしょ。自分がなんかのキーパーソンだって心当たりある?」
「はぁ?」
「やっぱりないよねえ」
頬杖をついてため息をついてると社と目が合った。
「聞いても無駄よ」
「(…こいつも差別主義者か)」
珍しく彼女が僕以外に視線を向けた。
「一瀬くん、色々と顔に出てるわ。で、深夜、私もあれ以上知らないって言ったでしょ」
「だって気になるじゃん」
「でもまあ気にするに越したことはないと思うわ。今回はね」
言いつつ含みのある笑みを浮かべた。
「やっぱりなんか知ってるんでしょ」
「別に」

帰ろうと教室を出たとき、校内放送がかかった。
「社・リデル、生徒会室に来い」
また前を歩いていた彼女が深くため息をついた。
周りの生徒は静まり返って彼女を見つめた。
「ついていってあげようか?」
「あなた一人追い返されるだけよ」
「それもそうだね。昇降口で待ってるよ」
「どうも」
そう言って彼女を見送ったものの僕は生徒会室に行った。
まだ知り合って日が浅くあまり素性の知れていない彼女については気になることなんて山ほどあった。
盗聴でもしようかと思ったその時、見知った人の声がした。
「深夜、お前は呼んでない」
バレたなら入ってもたいして変わらないだろう。
そう考えドアを開けるとソファに腰かけ腕組みをする暮人兄さんとその向かいに足を組んで紅茶を飲む社がいた。
「追い返されるって言ったじゃない」
そう言う彼女はずいぶんくつろいだ様子で、まるで自室にいるかのようだった。
昨日征志郎兄さんに会った時とは大違いだ。
「座れば?立ち話じゃ疲れるわ。ねえ、暮人さん?」
「入っていいと言った覚えはないがな」
「バレてるなら中で聞く方がいいと思って」
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