しゅみしゅみ

□犬鬼灯
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人の優れている点は何にでもすぐ順応するところだと思う。しかし慣れと言えば聞こえはいいが、知らないうちに何かが浸透しているというのは、あまり気分のいいものではない。
まぁ仕事上というか、この街の性質上毎日起こる大規模災害には慣れないというか、慣れてしまっては仕事にならないので正常な感覚を保つのには苦労する。また立場上、というよりは性格上、策略謀略を巡らすのが僕の仕事な訳だが、これに関しては動じない心が必要となる。

まぁさすがに、些細な事で動じるようなセンチメンタルな感情は無くしてしまったけれど。



そんな、異常が日常のこの街で、僕にとっては普通と言うにも足りない些細な出来事が起きていた。



友人だったはずの連中からの攻撃。
それは別に驚くことでも落ち込むことでもなく、またか、ぐらいの事だった


そのはずだった。そう。その、はずだったんだ。


「あぁ。そうか。はしゃぎすぎてたんだ。俺。」


言葉に出さなければ自分を納得させられない程度には、あの友人関係を楽しんでいた自分に、少しばかり驚いていた。



そんな友人関係が終わる数ヶ月前、その時はまだ友人だったはずの、エレンからもらった花のことを思い出した。


「ありがとう。エレン。これはなんていう名前の花なんだい?」

「blackshade。和名だと犬鬼灯って言うらしいわ。名前がカッコよくってあなたにぴったりだとおもって」


そう言って彼女は名前とは似ても似つかないその白い花を渡してくれた。

見たことが無いものだったからあの植物博士にでも聞いてみるかと思い、その花を持って事務所に向かった。




「クラウス。少し聞きたい事があるんだけどいいかい?」

「あぁ。構わない。」

「この花のことなんだが僕は見たことがなくてね。植物に詳しい気君ならわかるかと思って。」

そう言って花を見せると、少し黙ってこちらをじぃっと見てきた。


ただでさえ、普段から何もかも自分で背負い込んで胃を痛めてるような奴にそうも見られては、嫌でも何か言わなくてはと思う。

「クラウス」
そう、言いかけた時、


「君は」

この花の花言葉を知っていた上でこれを?

「いや、知らなかったけれど。」
友人からの貰い物なんだ。


あえて友人と称したその言葉が。

アイツの琴線に少しばかりでも触れてしまったことを、自分を見てくる強い目を見て何となく。


あぁ自分は何か不味いことを言ってしまったのだと、理解した。



「スティーブン。今日この後、君の家を訪ねてもいいだろうか。」


「……。? あ、あぁ。大丈夫。構わないよ。」


突然のその言葉に何秒か反応が遅れたのは、仕方の無い事だろう。
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