* 短編

□蛍
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7月31日 


ふと目が覚めて、時計を見ると

時刻は午前4時を回っていた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

寝たくなんかないのに、、



昨日、NMB48夏のライブツアー初日が

行われた。

この日を迎える為にレッスンに励み、

意見を沢山出し合ったりしてメンバー全員で

いいライブにしようとかなり気合いが

入っていた。

そして私はいつも以上に寝る間を割いて

自主練をいっぱいした。

少しでも自信をつけてこの日を迎えた

かったから。


ライブは毎回緊張するけどファンの反応を

直で感じられるからとても好きだ。

でも、この日のライブはいつも以上に

緊張していた。

絶対にいいものにしたい。

あの人の背中をしっかり押して

あげられるように。






彩『あたしな、、今年いっぱいで卒業しようと思うねん』


そう告げられたのは今年に入ってまだ

雪がチラチラ舞う寒い季節だった。

いつかは必ずこんな日が来ることは

わかってたし、覚悟もしてたはずだったのに

未熟な私にはやっぱりその現実を受け

止められる度量などなくて、

寂しくて悲しくて仕方なかった。


 「そっか、、、」


嫌だよ

辞めないで

ずっと一緒にいて


私の頭の中はそんな言葉で一杯だったけど、

彩さんの顔を見たらそんな事は

言えなかった。

いつも変顔したりふざけてばかりいるのに

今、目の前にいるあなたは

眉を下げ、どこか切なげで、

私がどんな反応をするのか不安そうに

見つめている。

そんな顔を見てたら嫌でもわかってしまう。

あなたの事だからきっと沢山たくさん悩んで

考えては取り消してっていうのを繰り返して

やっと決断したんだと思う。

それならば私はあなたが決めた事を

肯定するのみだ。


 「話してくれてありがとうございます。  大丈夫。あとは私たちに任せて下さい」


そう言って私はどうか安心してほしくて

笑ってほしくて…


ポンポン


彩さんの頭を撫でてあげた。


彩『、、ありがとう』


そう言って彩さんは笑ってくれたけど

少しだけ泣いてた。


私はこの日から決めたんだ。

彩さんが卒業するその日までに、

しっかり送り出してあげる準備をしよう。

彩さんがずっと守ってきてくれたこの

NMB48を、今度は私が守れるように

ならなきゃいけない。

そしてもうひとつ、ある考えが頭を過って

この日からずっとその事で悩む事になった。


でもやっぱり、いつか来るその日の事を

考えるとすごく寂しくて。

NMBで活動している時はみんなの彩さん

だから、あまり独占しちゃいけないと思い

どこか控えめに接してきたつもりだけど、

もうそんな遠慮はやめにした。

周りがどれだけ冷やかしてきてもそんなの

関係ない。

私は思う存分大好きな彩さんのそばに

居ることにした。



それから数ヵ月が過ぎ、ライブ初日を

迎えた。

ライブ中のMCで噛みまくったり、

踊ってる最中に全身がつったりして

焦ったけど、なんとか本編は乗り切った。

ライブは有難い事に大盛り上がりで、

アンコールも起きて、残りあと1曲で

幕を閉じようとしていたその時、

とうとうこの瞬間が来てしまった。


彩『私、山本彩は、NMB48を卒業します』



彩さんが卒業発表をした。
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