* 短編

□二人の足跡
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彩『夢莉はそんなに寂しくなかったんや…』


 「ち、違うよ!、、でも私は…いつもメンバーと一緒だったからさ、、」


彩『そっか、、、ごめん。別に怒ってる訳ちゃうよ?確かにメンバーとおると楽しいもんな。寂しい思いさせてないかって心配やったからよかった』


これは本心なのかな、、きっと違うよね。よかったと言う割りにはどこか元気のない声色だし…そして私を抱きしめてるこの腕に少しだけ力が加わったように感じて、こういう時はだいたい何か不安になってる時だ。


彩『今日な、帰ってきた時、家の電気がついてて。まさかって思った。来てくれるなんて思ってなかったから、、ありがとう』


 「、、迷惑じゃなかった?」


彩『そんな訳ないやん。来てくれてめっちゃ嬉しかったんやから』


 「そっか…それならよかった」


サプライズが好きな君だから内緒にしたというのもある。でも、その次の理由を挙げるとすればそれは、今日ここに来てもいいか訊ねるのが恐かったから。もし来たらダメだと断られたらどうしようという気持ちからどうしても今日君に会いたかった私は聞けなかったのだ。

私達は決して別れた訳では無い。お互いを想い合う気持ちだって変わってない。それなのに、、会う頻度が減り、連絡を取る回数も減った今、前まで当たり前に出来てた事にも少しづつ遠慮するようになって、だんだん迷ってしまう事も増えた。


彩『今日は朝からレコーディングやってんけど、午前中は全然身が入らんくてさ。自分でもヤバいなぁって感じてたけど、周りのスタッフさんから『これは日付変わるな。』って声が聞こえてきて。それだけは絶対避けたかったからそこから凄い集中して頑張ったら早く帰れる事になってさ。部屋に着いたらすぐ夢莉に電話しようなんて事考えながら帰ったらソファーに夢莉が座ってて、、』


 「・・・」


彩『、、、』


 「、、彩ちゃん?どうした?」


話しの途中で突然何も話さなくなった事に心配になって君の腕を軽く解き後ろを向いて顔を覗き込むと、


 「彩ちゃん…」


君は大きな瞳からポロポロと涙を流し、静かに泣いていた。


彩『あたしが言ったのに…あたしが夢莉を突き放したのに…っ、、毎日毎日凄く寂しくて…、、でもこんな自分が情けなくて腹立って来るし……、、もうどうしたらいいのかわからへん…』


泣きながらも一生懸命、必死に話してくれた。そんな姿を見て、寂しがり屋の君が一体どんな思いで私と会えない日々を過ごして来たのか考えたら胸が痛くなった。こんなに寂しがってくれてたんだ…君の泣き顔を見てとても苦しくなったけど、それと同時にこんなにも自分を必要としてくれてる事を実感して愛しさが溢れ出してきた。


確かに切り出したのは君の方だった。でも、君が言わなければきっと私から言っていた。あの時の私達は周りからの重圧に相当参っていたから。


 “色々な事が解決するまでは今までみたいに会うのやめよ。寂しくなるけどきっと大丈夫やから。あたし達なら絶対、運命の日を迎えられる。だから今は、、距離を置いた方がいいと思う…”


今でも覚えてる。あの日、きっと私と会う前まで泣いていたであろう真っ赤な目をした君は、誤魔化すかのように笑ってた。苦しいはずなのに。


 「私も同じだよ、彩ちゃん」


彩『、、っ、』


 「さっき少し嘘ついた。本当はね、私も凄く寂しかったよ。会いたくて会いたくて堪らなくて、、だから今日、記念日を理由にして会いに来たんだ…」


 「距離を置く事にしたのは二人で決めた事だし後悔してる訳じゃない。でも、もっと大人達に反抗できたんじゃないかとか考えちゃうんだ…そしたらもっと彩ちゃんと会えるのにって…私はまだまだ子供だからさ…」


彩『夢莉、、』


 「でもね、もうそんな事考えるのやめようと思う。これは彩ちゃんだけじゃない。二人で決めた事だよ。だからもう自分を責めないでほしい。誰も悪くないんだから、、それに、彩ちゃん言うてくれたやん。私達は絶対、運命の日を迎えられるんやろ?それを私は信じてるから」


そう訊ねた私に、泣きながらコクっと首を縦に振ってくれた君を見て、少し安心した。



 “ 運命の日 ”


それは、君からしたらどの日を指した言葉なのかはわからない。でもきっと、答え合わせなどしなくても同じ事を思ってるんじゃないかと思うんだ。

今はまだ認められてないけど、いつかきっと私たちの愛を誰もが祝福してくれる、そんな日がきっと来るから…


誰よりも陽気でパワフルで、周りに居る人全てに光と温かさをくれる。
そんな君は正にキラキラと輝く太陽そのものだ。

そんな君からいつも元気を貰ってばかりの私だけど、たまには私も光を届けさせてほしい。君に比べたら私ができる事などあまりにもちっぽけ過ぎて意味がないかもしれないけど。

今の私たちにはいくつもの弊害があって、不安になり出したらきっと止まらなくなる。Twitterやインスタのフォローを外すよう指示されたり、例え仕事の現場が同じでも近づかないよう見張ってる大人たちの目があったり、元メンバーとして一枚の写真に納まる事さえも許されない。その度に心が何度も折れそうになったけど、そんな事に負けて別れるような軟な絆じゃない。私たちなら大丈夫だと君が言ってくれたから私は信じたいんだ。次、いつ会えるのかもわからないけど、今度会う時にはもっと強くなって、ずっと守ってきてくれた君を今度は私が守れるくらい、もっともっと強くなるから。


 「だから彩ちゃんも信じてて。大丈夫。また絶対、会いに来るから」


実は彩ちゃん家に来るのは少し大変だった。私を見張る大人には何とか上手く嘘をつき、スキャンダルを狙うカメラが周りにないかを警戒したりして。でもそんな苦労も君と会う為なら全く苦に感じない。


頬に流れる綺麗な涙をそっと拭うと、揺れる瞳が私を捉えた。


彩『ありがとう…夢莉』


そう言って笑ってくれた君に私は沢山キスをした。君と私の不安がどうか消えますようにと願いながら。













彩『なんか悔しい。』


時刻はもう深夜2時を回っていた。


あの後、キスだけでは終われなかった私達。朝ちゃんと起きられるかな…なんて不安もあるけれど、それ以上に感じる幸福な体の怠さが今はとても嬉しい。


マットレスの上に敷かれた布団の中で向かい合いながら寝そべる。布団からはとても落ち着く彩ちゃんの匂いがして、この布団、持って帰っちゃダメかな…なんて馬鹿な事を本気で考えていると、聞こえてきた君の声。


 「ん?何が?」


彩『だって夢莉がいつの間にか大人になってて、、これじゃああたしの方が子供みたいやん…』


 「そんな事ないんじゃない?w」


彩『あー、笑った。人が真剣に話してんのに笑った…もうゆーりなんか知らん』


 「ごめんって…もう笑わないからイジけんで。彩ちゃんにくらべたら私なんてまだまだ子供だよ。だってこうして向かい合ってる今でもすごく緊張してるんだよ?」


彩『さっきまでもっと凄い事してたのに?』


 「うん…」


彩『童貞か。』


「童貞です。」


彩『、、プッ!w』


線のような目をして君に顔を向けるとケラケラと笑ってくれた。
でもさっき言った事は本当の事なんだけどな…尊敬してて凄く大切だし大好きな君と見つめ合う時ほど胸が高鳴り緊張する事なんてないと思う。

こんな私は君となかなか会えなくなった今、悪夢ばかり見るようになったなんて話したら君はもっと笑うだろうな…まぁ、絶対話さないけど。



彩『なんかさ、今、幸せすぎて怖い』


 「え?」


彩『こんなにあたしを想ってくれる夢莉が隣りに居る今が幸せすぎて』


 「うん…私もだよ」


彩『こんなに幸せやとさ、すんごい罰当たりそうじゃない?』


 「大袈裟w そんなの大丈夫だよ」


彩『だって、明日何が起こるかわからんやん?突然声出なくなって歌えなくなるかもしれん。そしたら、あたし無職やで?』


「ハハッw 絶対そんな事ないから」


彩『ないかなぁ?そうだとええけどさ…』


いつもの私たちなら立場は逆だ。すぐにネガティブになって落ち込んでしまう私を励ます役はいつも君だったのに、今夜は珍しく弱気な事ばかり言っている。それだけ会えなかった日々が相当堪えたのだろうか。


 「、、、じゃあ、もし彩ちゃんが無職になったら、私が養ってあげます」


彩『え?、、、何の仕事するん?』


 「そうだなぁ…家で出来る仕事とか。あっ、株トレーダーとか?」


彩『それ8周年ライヴの時のゆーりの役やんww あぁ、でもええかも。引き籠もりの夢莉にぴったり!』


 「失礼なw 」


彩『じゃあさ、あたしがすっごい変な転げ方して歩けなくなったらどうする?助けてくれる?』


 「それは間違い無く他人のフリするよね。」


彩『はぁ?ヒドっ!!薄情者!!』


 「ハハッw 冗談に決まってるのにw」


彩『もういい。ゆーりなんか知らん』


またまたいじけてしまった彩ちゃん。

少し面倒くさいと感じる時もあるけど、こんな可愛さにずっと振り回される人生も悪くない。



 「彩ちゃん。」


彩『、、、』


 「ねぇ、彩ちゃん?」


彩『、、、むぅ…なに?』


 「『足跡』っていう詩、彩ちゃん知ってる?」


彩『唐突やな、、足跡?、、知らんかも…どんな詩?』


 「ある男と神様の話なんだけどね、」





足跡


ある晩、男は夢をみていた

夢の中で彼は、神と並んで浜辺を歩いている

空の向こうには、彼のこれまでの人生が映し出されては消えていき、その懐かしいどの場面でも、砂の上にはふたりの足跡が残されていて、ひとつは彼自身のもの、そしてもうひとつは神のものだった

しばらく歩いて、人生のつい先ほどの場面が目の前から消えていくと、彼は後ろを振り返り、砂の上の足跡を眺めた

するとその人生の道程には、ひとり分の足跡しかない場所がいくつもあった

しかもそれは彼の人生の中で、特につらく、悲しい出来事があった時ばかり

なぜ?

悩んでしまった彼は、神にその事を訊ねた


 「神よ、あなたはずっと私と共に歩いて下さるとおっしゃられたのになぜ私の人生のもっとも困難な時にはいつも私の足跡しか残っていないのですか?私が一番にあなたを必要とした時、なぜあなたは私を見捨てられたのですか?」


その問いに神は答えた


 『わが子よ。私はあなたを見捨てたりはしていない。よく見てご覧なさい。あなたの試練と苦しみの時、ひとりの足跡しか残されていないのは、わたしがあなたを背負って歩いたからだ。』





これは私が小学生の頃、担任の先生が読んでくれた詩だ。うる覚えだし、どういう経緯でこの詩を先生が読んでくれたのかは覚えてはいないけど、感動した事だけは覚えてる。そしてさっき彩さんと話している時にふとこの詩が頭の中を過った。


彩『自分の足跡ではなく、神様の足跡だったって事?』


 「うん。彼がひとりでは歩けなかった時、神様は彼を背負って歩き続けてくれたからひとり分の足跡しかなかった。私ね、さっきこの神様みたいになりたいって思った」


彩『神様みたいに?』


 「うん。さっき、もし転んだらどうするかって聞いたでしょ?」


彩『うん…』


 「彩ちゃん、もしあなたの声が出なくなっても私があなたの声になります。あなたが何かにつまずいて歩けなくなったらこの神様みたいに私が背負って歩きます。」


彩『夢莉、、』


 「だからこれから先もずっと…あなたのそばに居てもいいかな?」



言い終わった後、なんだかこれ、プロポーズみたいじゃない?と小っ恥ずかしくなったけど、まあいいや。何も計算せず思ったままの言葉を言ったのだけど、元々そのつもりだし。私は君と、一生添い遂げたいのだ。




彩『もぉ何なん…今日の夢莉ズルいわ』


 「ハハッ…」


ちょっとくさ過ぎたかな…なんて思ったけど、


彩『やっぱりなんか悔しい……でも、、嬉しい。夢莉が背負って歩いてくれるなら、きっとどんな地獄でも楽しいやろな』


 「彩ちゃん…」


彩『ありがとう、夢莉。あたし方こそ、これからもずっとそばに居させてな』


 「っ…」


そう言ってチュッと甘いキスをしてくれた君は、途端に恥ずかしそうな顔をした。
そっちからキスしておいてそんな可愛く照れるなんて反則だ。


ギシッ…


彩『え、、また?』


 「可愛すぎる彩ちゃんが悪いんだからね」


彩『んっ!、、』



日付はもう変わってしまったけれど、私たちの記念日はまだまだ終わりそうもない。



君を背負って歩きますだなんて随分カッコつけてみたけれど、実際背負われるのはきっと私の方だ。すぐに病んでひとり塞ぎ込んでしまう私を救い、灯りを照らし、前へと導いてくれるのはいつも君だから。

どんなに強がったっていつも光り輝き進化し続ける君にはどう頑張ったって追い付けないし敵わなくて。そんな自分が格好悪くてもどかしいし焦りを感じる事もある。悔しい気持ちだってもちろんある。でもなぜか私はいつまでも手の届かない、そんな君がとても誇らしくてなぜか自慢に思うのだ。私にはきっと斜め後ろ位が丁度いい。君にはずっと私の前を歩いていてほしいから。



6月27日。

1年に一度しか来ない、私たちにとって

とても大切な日をこれから先もずっと、

君と迎えられますように。

また会えない日々がお互いを不安にさせて

しまうかもしれないけれど、そんな時は

またこうして会いに来るから。

だから絶対、二人で乗り越えようね。

そしていつか、“ 運命の日 ” を

君と笑顔で迎えられますように。

彩ちゃん、

私を好きになってくれてありがとう。

私達の人生はまだまだこれから長くて、

嬉しい事も悲しい事もきっとあるけれど、

並んで歩くだけじゃなくて背負ったり

背負われたりでもいいから。

私達の人生の浜辺に君と私の足跡が

永遠に続いて行きますように。
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