* 中編 約束の向こう側

□約束の向こう側 第6話
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side sayaka




10月28日



待ち合わせた駅の前には夢莉の姿はない。


ここには、


息を切らしながら泣いている三田さんと


その姿を見て物凄い不安と戸惑いを


感じている自分だけが立ち尽くしていた。



三『夢莉さんは、、ここには来ません…』


 「、、どうして?」


三『、、、』



ヒューー


今夜はやけに風が冷たい。

もっと暖かな服を着てこればよかったかな。

もしかしたら自分だけがそう感じてるだけ

なのかもしれない。

でも、

外を漂っていた金木犀の甘い香りが

しなくなった事を考えれば、まだまだ

季節は秋だと思っていたけどいつの間にか

もう、すぐそこまで冬が訪れて来ている

という事なのだろう。

きっとそうだ…



三『、、夢莉さんからこれを彩さんに渡してほしいと…』


 「、、、」


しばらくの沈黙の後、三田さんが差し出して

きたのは一枚の白い便箋だった。

どこか渡しづらそうにしている三田さんを

見て、受け取った便箋を開ける事が

できずにいた。

嫌な予感しかしなくて、、

この手紙に何が書かれているのか知るのが

恐い。

この状況を考えたら絶対いい内容じゃないに

決まってるから…

でも、

涙を流しながら真っ直ぐ見つめてくる

三田さんの顔を見たら、

知る事から逃げられないんだと思った。



便箋から二つ折りにされた手紙を取り出し

どうか違ってほしい…

そう願いながらゆっくり手紙を開くと

そこには昨日テーブルの上に置いてあった

メモに書かれた筆跡と同じ文字が。


夢莉の字だ、、


ただそれだけなのにもう胸が一杯だった。




 彩さんへ


突然の手紙で驚かせてごめんなさい。
そして、待ち合わせの場所に行く事が
出来なかった事も。

やっぱり私は彩さんとアメリカに行く事は
できません。ごめんなさい。
どうか、ずっとお元気で。      

               夢莉 




理由さえも書かれていないこんな手紙で

納得できる訳もなくて、鞄から携帯を

取りだし夢莉に電話をかけてあたしは

最後の悪あがきをした。

でも、無機質な発信音が響くだけで

繋がる事はなかった。

あまりにも一方的なこの手紙であたし達は

呆気なく終わってしまったんだ…


何がいけなかった?

夢莉が嫌がる事をあたしはしてしまってた?

もしそうだとしたら少しくらいあたしに

チャンスを与えて欲しかった。

理由も教えてくれないのなら直しようも

ないよ…

夢莉が望む事ならなんだってできたのに、、



 「不思議ですね…フラれてこんなに悲しいのに涙が出ないなんて」


三『、、彩さん…』


本当はここに三田さんが来た時から

何となくわかってた。

きっともう夢莉は来ないんだって、、


 「結局、、独りよがりになってたって事ですね…これから夢莉とずっと一緒にいられるって舞い上がってたから夢莉の気持ちが自分から離れていってた事に気づかなかった…あたしだけ馬鹿みたい…」


三『夢莉さんは決して彩さんから気持ちが離れた訳ではないです!!』


 「じゃあどうしてここに来なかったんですか?、、夢莉はあたしとの未来を選んでくれなかった…それなら気持ちがないのと同じですよ」


三『っ、、彩さん!これには訳が、』


 「もういいです」


ゴロゴロゴロ…


三『ちょっと待って下さい!どこ行くんですか?!』


 「帰ります…もうここに居たくないんで」


あまりにも虚しくて早くこの場から

逃げたかったあたしは、持ってきた

キャリーケースを引いて歩き出した。

あたしの後を三田さんが追い掛けて

来てたけど、もう放っておいて欲しかった。

きっと今のあたしは三田さんのどんな言葉を

聞いたって惨めになるだけだ。

もう誰とも話したくないし、全てが

どうでもよくなった。

 
やっぱりこんなに寒く感じてるのは

あたしだけだ。


" ずっと愛してる "


そう言ってくれたのに、、


君の温もりを失ったあたしは

一気に長い夢から覚めたようだった。


きっとバチが当たったんだ。

東京へ行ってメジャーデビューする事を

沢山の人が喜んでくれたし、これからも

応援すると言ってくれてたのに、

その気持ちを踏みにじるようにあたしは

自分の幸せの為に嘘をついた。

みんなを裏切った…そんな極悪人だから

神様はあたしから夢莉を取り上げたんだ…


全てを無くした事に絶望しながら

行く宛もなく、気づいたら今まで

住んでいたマンションに戻っていた。

ここを出る時、もう戻る事はないと思って

いたのに。


エレベーターに乗り込み押し慣れた数字の

ボタンを押す。

確か今月いっぱいまでならここに住める。

それからは、、どう生きていこうか、、

ひとりでアメリカに行くのもいいかも

しれない。

フラれてしまった事を伝えてもきっと

あの陽気な姉なら笑い飛ばしてくれる

だろう。


そんな事を考えながらエレベーターから

降りて自分の家へと向かうと、



 『おかえり』


 「、、、上西さん…」


そこには腕を組みながら玄関のドアに

寄り掛かる上西さんが居た。






ごめんね、夢莉


この時のあたしは何も知らなかった


君がどんな思いで


その選択をしたのかを…


その思いを知ったあたしは


物凄くつらくて苦しくて…


涙が止まらなかったよ


君の本当の思いを知ったのは


この日からずっとずっと先だった
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