* 中編 約束の向こう側

□約束の向こう側 第7話
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side yuuri



懐かしい夢を見た…

あなたと初めて出会った頃の夢だ。

今思えばあの日、

あなたを追って行かなければもう少し

違う形であなたと繋がっていられた可能性は

あったのかな?

あなたと近づけると思って足を踏み

入れたつもりだったけど

反対に随分と遠回りしてしまったのかも

しれない。


だから、もしも願いが叶うのなら

どうか時間を戻したい。

あなたを見つけたあの日に、

私は帰りたいよ。






2015年12月



男『なぁぁお願いやって!ええやん!なっ?優しくするから』


 「離して!!絶対無理っ!!」


私は今、

けっこうピンチな状況を迎えていた。



高3の冬、

いつもなら学校が終わってから予備校に

通う毎日を過ごしていたけど、この日は

全く行く気になれずにボーッと電車に

揺られていたら、気づいた頃には降りる

はずの駅を通り越していた。

やってしまった…

そう思ったけど、もういいやと開き直った

私は、いつもは降りない駅に降りてみる事に

した。


ザワザワザワ…


一度も来た事のないこの街。

話しには聞いてたけど、想像以上に人で

溢れ返るこの街に何か面白い事がないか

なんて考えながら特に目的地もないから

ふらふらと街中を少しの間歩いていた。

すると、


トントン


男『ねぇ君、めっちゃ可愛いね〜どこから来たん?さっきからずっとふらふらしてるみたいやけど、暇やったら俺と飯行かん?』


ニヤニヤした顔で随分チャラそうな

30代位の男から声を掛けられた。

いい大人が女子高生に声掛けるなんて、、

こういう大人ほんと無理…

いつもだったらこんな奴の問い掛けなど

無視してた。

でも、この日の私は簡潔に言うと…

おかしかった。


 「、、別に…いいですけど…」


男『えっ?、、ほんまにええの!!?ヤッタ!それじゃあ行こか♪』


 「、、、」


男『いや〜声掛けてみるもんやな〜♪』


ルンルンとした足取りで人混みを掻き

分けていく男の後をついて行く。

この人について行ったら何か面白い事

あるかな…

私はそんなありえない事を期待していた。



男『それでさぁークチャ…クチャ…クチャ…俺がそいつにこう言ったわけ。クチャ…クチャ…』


 「・・・・」


5分程歩いた先の飲食店に入って席に

着くやいなや、ずーっとペラペラ話し

続けるこの男。

まぁ、沈黙されるよりはいいのだけど

それにしてもクチャクチャと音を立てながら

食事する姿があまりにも気になってしまって

話しの内容が全く頭に入って来ない…

始めは頑張って話しに集中しようとしてた

けど、だんだん面倒になってきたから

適当に相槌をうちながら聞き流す事にした。



男『あぁ〜喰った喰った〜』


随分と長く感じた食事の時間を終え、

会計レジに向かいお金を出そうとすると、

『俺が出すから』と制止された。

でも全然知らない人に奢って貰うなんて

意味がわからないからやっぱり払おうと

サイフを開けると、


 「(えっ…お金全然ない!なんで?!)」


お金がない事に顔が真っ青になった私は

頭をフル回転させて考えてみた。

そういえば、、

この前けっこうな出費をしてサイフの中が

ほぼカラになったんだった…


 「すみません…」


男『初めから奢るつもりやったからええよ♪』


結局、この見ず知らずの男に自分の分の

お金も出して貰う事になって最悪な気分に

なった。

何してるんだろう私は、、

今日の自分は完全にどうかしてる…

予備校サボっていつもはしない寄り道

なんかしたからこんな事になるんだ。

やっぱりもう家に帰ろう…


飲食店から外に出るともう外は真っ暗に

なっていたけど、この街はあらゆる

店の電飾でギラギラと光っていて、

その光景を見ているとなぜだか胸が

ザワザワした。


男『あれ〜もうこんな暗くなってたんや〜』


 「…あの、お金必ず返すので住所教えて頂けませんか?」


男『え?w めっちゃ真面目やな〜自分。たったあんだけの金額別に返さんくてええってw 』


 「でも、、」


男『ほんまええから♪逆にこんな安くついてラッキーやわ。、、それじゃあ…そろそろ行こか』


ガシッ


 「っ、、え?」


突然この男に手を握られて一瞬で身体中に

寒気が走った。

そして驚く間もないくらい物凄いスピードで

私の手を引きながら男は歩き始めた。


 「ど、どこに行くんですか?!」


いくら問い掛けても『大丈夫、大丈夫』

としか言わなくてだんだん不安になって

くる。

この街を全く知らない私はどこに向かってる

のか全然わからなかったけど、さっきよりも

明らかに人通りが少ない道を歩いてる事に

気づいた。

これはヤバい…そう感づいた時には

もう遅くて、目の前に現れたのはピンク色に

ライトアップされたラブホテルだった。

それを目の当たりにした瞬間、一気に

我に返った。




そんなこんなで今に至る。


 「離してって言ってるでしょ!?警察呼びますよ!!」


男『またまた〜w ナンパされてついてきたんやからこうなる事分かってたやろ?それにどうせ初めてちゃうやろし。大丈夫!絶対後悔させへん!俺けっこう上手いから♪』


ダメだ、、何言っても諦めてくれそうも

ないこの男は最低な発言をしながら強引に

ホテルの入り口へ向かって行く。

私はこの男に一体何を期待してたのだろう。

ノコノコとこんな所までついてきてしまった

自分が馬鹿すぎて後悔していた。


1週間前、私はとても大切な人を失った。

その悲しみは例えようのないもので、

とにかく苦しくて苦しくて堪らなくて

誰かに助けてほしくて。

藁にもすがりたいほどだったから…

でも、こんな事を望んでた訳じゃなかった。

ただ、重くて堪らない自分の心が少しでも

軽くなるような出来事はないかと探してた

だけだったのに…そんな事考えた自分が

罰当たりだったのかもしれない。



強い力で腕を掴まれ必死に抵抗するけど、

男の力に勝てる訳もなくどんどんホテルの

入り口へ引きずられて行く。

このままでは本気でマズいと感じて

誰かに助けを呼ぼうと周りを見渡すけど

驚くほど全く人影はない。

さっきまで人で溢れ返ってたのに

裏路地に入ってしまえばこんなにも人が

いないんだ、、と絶望しながらも必死に

抵抗している時だった。



 『ちょっと、何してんの?』


ホテルの中から出てきた女性が私たちに

声を掛けてきた。 


男『何って、、見ればわかるやろ、、って、あっ!オイ!!』


突然話し掛けられた事に動揺したのか、

さっきまで私の腕を強く引っ張っていた

力が一瞬緩んだその隙に私は男から離れた。

でも、また私を捕まえようとこっちに

男が近づいてきて焦った私は体を強張らせて

いると、それに気づいたのかお姉さんが

間に入ってくれた。


 『ちょっと待った。お兄さん、ちゃんとこの子と合意の上でここに入ろうとしてんの?』


男『当たり前やろ!』


 『ほんまに?』


信じられない…こんな自信満々な顔をして

平然と嘘を吐いたこの男に唖然として

開いた口が塞がらないでいる私を見て

お姉さんは怪訝そうな顔を男に向けた。


 『そうは見えへんけど』


男『あぁーうっさい、うっさい。邪魔者はどっか行けや』


 『どう見てもこの子嫌がってるやん。それにこの子制服やし。中に入っても未成年ってバレて警察呼ばれるだけやで。なんなら今、通報しよか?』


男『はぁ?ってか、さっきから何やねんお前!!関係ない奴は引っ込んでろ!』


ドンッ! ドサッ


 『痛っ!、、』


 「っ!、だ、大丈夫ですか!?」


私を助けようとしてくれたお姉さんが男から

突き飛ばされて勢いよく転んでしまった。

急いでお姉さんの元へと駆け寄ろうとすると


男『あんな女どうでもええから!ほら、さっさと行くで!』


男がまた私の腕を掴んできたけどそれを

思いきり振り払った。


 「最低ですね!!人を突き飛ばしといてそのままですか?」


男『なんやねんお前まで!元はと言えば飯奢って貰っといてずっと抵抗してきたお前が悪いんやろ!』 


 「はぁ!?」


確かにお金出して貰ったのは申し訳ないけど

私が食べたのは980円のハンバーグだ。

たった980円でヤらせろって?

人を突き飛ばしたりするしコイツ一体

何なの?

いい加減頭に来た、、殴ってやろう。

そう思った瞬間、



ドカッ!!


男『痛っってえええぇぇーー!!!』


 『女を舐めんなよ!!バーーカ!!』


 「(えぇぇぇぇ!!)」


さっきまで倒れてたお姉さんが後ろから

男の股間を蹴りあげた。

強烈な蹴りをくらった男は地面に蹲り

動けずにいて、そんな様子に私は驚き

絶句しながら固まっていた。

すると、


パシッ


 『へへっ♪行こ!』


ドクンッ…


 「っ、、」


お姉さんはまるでしてやったりといった

ような顔で笑いながら私の手を引いて

走り出した。

後ろから男が何か叫んでたけど無視して

私はただ前を走るこの小さな背中を

見つめながら、さっき感じた自分の中の

違和感は何なのかを考えていた。
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