* 短編 綺麗な背中【完】

□綺麗な背中 2
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シュワーーーー…


 " わぁ、綺麗〜 "


デイキャンプの締め括りといえばやっぱり花火。
大量に用意された手持ち花火や噴出花火だけど、人数も多いから無くなるスピードも早くて。だからみんな早いもの勝ちだと言わんばかりに手に取っていく。


大『見て見て〜何て書いてるか当ててみて〜いくよ〜』


朱『お、、し、、り……おしりですか?』


大『ピンポーン!大正解〜!!おしりっ♪あはははっ♪』


朱『・・・(どんな反応したらええかわからへん…)』


今日の大島会を一番楽しんでるのは大島課長本人なのは間違いない。もう30過ぎたいい大人なのに、傍から見たらまるで幼稚園児だ。あまりにハイテンション過ぎてついて行けない時もある。でも、そんな楽しそうな姿がみんなの気持ちも明るくしてくれるのは事実で。この人は本当に無邪気で、太陽のような人だ。



カシャカシャ


 『彩さん、綺麗だね』


 「ほんまやなぁ。って、夢莉もやろうや。さっきから写真しか撮ってへんやん」


 『うん、後でやる』


そう返事はしたものの、夢莉はその後もずっとスマホで写真ばかり撮ってて結局全ての花火が無くなってしまった。






 『あぁ〜楽しかったね♪』


 「そやな〜」


 『今日は連れて行ってくれてありがとう』


 「どういたしまして」


みんなとは駅で解散して、あたしと夢莉は家までの歩き慣れた道を歩いていた。


ビューー


街灯と中途半端な大きさの月だけが光る暗い道に秋風が吹き抜けて、それが思ったより冷たかったからつい身を縮めると、『寒い?』と柔らかな声が頭上から降ってきて、あたしは「ううん」と答えた。


一度は連れてこなければ良かったと思ったけど、やっぱり一緒に行って良かったと思った。だって夢莉が楽しかったと言ってくれたから。

楽しい時間は本当あっという間に過ぎてしまう。でも、夢莉と一緒に過したという記憶は絶対忘れないだろうな…どうしてそう思うのかはわからないけど。



 『ねぇ、彩さん』


 「ん?」


 『ベランダってさ、禁煙かなぁ?』


 「ベランダ?そりゃあ隣り近所の迷惑になるやろうから禁煙やない?、、って、まさかタバコ吸う気か?まだ未成年やねんからそんなん許さへんで?」


 『違うよw 』


 「じゃあ何なん?」


 『(ニコッ)』


 「?」










 「なぁ?どこ行くん?」


 『まあまあ、着いてからのお楽しみ♪』


突然、家とは真逆の方向に歩き出した夢莉の後を何もわからずついていくと、


 『じゃーーん!!ここが僕の隠れ家♪なかなか洒落てるやろ?』


 「・・・」


連れて来られたのはブランコと砂場、そしてタコの形をした色褪せた大きな滑り台がいい味を出してるこじんまりとした公園。


 『どう?』


 「どう?って…普通に公園やけど、、今からここで遊ぶつもりか?」


 『フフン♪実はね〜…』


どうしてここに来たのか全然状況が掴めず呆気にとられてるあたしの前で、なぜか得意気な顔した夢莉は自身が着てるパーカーのポケットから何かを取り出した。


 『ほらっ!貰って来ちゃった!』


 「え、、それいつの間に?」


 『みんなが噴出花火に夢中になってる時にこっそりね。彩さんと二人でやりたかったから』


ポケットの中から出てきた物、それは、
青いライターと2束の線香花火だった。








 「どっちが長く落とさずにいられるか勝負な!負けた方は勝った人の言う事を1つ聞くこと!」


 『望むところだ!』


 「『せーの!』」


ジリジリジリ…


園内の遊具がない場所に腰を降ろし、掛け声と同時に火を点けた。


線香花火といえばやっぱりこうなる。
はっきり言って負ける気はしない。
子供の頃、よくこの謎の勝負を兄姉や友達とやってたけど負けた記憶はない。実は火球を落とさないコツをあたしは知っているのだ。フッ…負け戦だとも知らずに…可哀想だけど大人げなく勝つ気満々のあたしは、勝ったらどんなお願いしようかなぁなんて事を暢気に考えていた。夢莉からのいつもと違う眼差しに気づかずに。




 「おっ?おっ?ゆーりちゃんのそろそろヤバいんちゃう?火球めっちゃ震えてんでw」


 『・・・』


 「あたしの見て?まだまだ全然余裕〜♪こりゃあたしの勝ちかなぁ〜何して貰おっかなぁ〜マッサージでもして貰おうかなぁ、うーん…でもそれは日頃からよくして貰ってるし…」


 『綺麗だね』


 「え?、、あぁ、うん。ほんま線香花火って綺麗よな。でもまだ序の口やで。これからもっとバチバチと…」


 『そうじゃなくて…彩さんが。』


 「え?」


 『凄く綺麗。彩さんが。』


 「、、、え?」





あたしが?、、、




急にそんな事言うからだ。



勝つ気満々だったのに。



一発芸でもして貰おうかなんて



暢気に考えてたのに、、



動揺して手元が揺れてしまった。



あまりにも真剣な瞳から、



目を逸らせなくなったから。



 「、、」


ジュッ…


 「、、あっ…」


 『落ちた…僕の勝ちだね』


 「…ちょっと待って?今のは、っ」



反則だ。


そう言おうとしたけど言えなかった。


さっきまで隣りにいた君が、


あたしの唇を塞いだから。




チュッ…


その唇が離れると同時に小さくリップ音がした。


あたし、、、


夢莉にキスされた?、、



 『彩さん、、好きって言ったら、、困りますか?』


 
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