* 短編 綺麗な背中【完】

□綺麗な背中 4
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ギィィィ…


真っ白なドアを開けると、カントリー調の家具で統一されたリビングに辿り着いた。


私…どうしてここに居るんだろう…


ここは見間違える訳もない、あの家だ。


昔、家族3人で暮らしていた大切な家。


懐かしい…

色々な出来事をひとつひとつ思い出しながら周りを見渡すと、ふと目に入ってきた二人の人物。

そこには、


 『…ママ?、、』


小学生くらいの幼い自分と、


 " 夢莉、、、 "


泣いている、母が居た。



そうか、、



私はまた…あの日に帰って来たんだ…





 『泣いてるの?、、』


 " っ、、夢莉、、ごめんね、、"


 『、、』


 " ママ…もう無理なの…ママの事、許さなくていいから、、一生恨まれても仕方ないと思ってる… "

 
 『何、、言ってるの?ママ、どっか行くなら夢莉も一緒に連れてってよ』


 " 、、、 "


 『ねぇ、ママ!』


 " 、、ママはこれからもずっとあなたが大好きよ…さよなら…"


 『っ、待って、どこ行くの!ママ!!』

 
私の目の前を通って行った二人を追って玄関を出ると、そこにはタクシーが停まってて、


 『ママ!!お願いっ行かないで!!ママ!!』


キャリーケースを引いた母は車の中に足早に乗り込み、


バンッ!


ブゥーーーーン…


 『ママ!!、、ママっ、、っ』


行ってしまった。

裸足のまま立ちすくみ、

泣いている私を残して。









 『、、、』
 

この夢からの目覚めは、とても静かだ。

もう随分昔の出来事だから、今更うなされる訳でも泣き叫ぶ訳でもない。ただ少しだけ胸が重たくなるくらいで。

でも今日は、、少しだけいつもと違った。


スー…スー…


華奢な肩を微かに上下させ規則正しく呼吸するあなた。悪夢から目覚めた私の目の前にあったのは、昨夜私に背を向け眠りについたはずのあなたの寝顔だった。

昨夜はあまり眠れなかった。別に私達のルールでも何でもないのだけど地味にショックが大きくて。嫌われるような事したのかな…それとも、彩さん自身に何かあったとか?…そんないくら考えても答えのわからない疑問が頭の中を全て支配していた。考えれば考える程嫌な事しか思い浮かんで来なくて、どうしようもない気持ちになりながらこの小さな背中を見つめていた。

こんなにも近くにあなたは居るというのに、いつもと違うってだけでどうしてこんなに遠く感じるのだろう。
振り向いてほしい、そんな衝動が私を動かし、目の前の肩まであと少しという所まで手を伸ばしたけれど、結局触れる事なくただ空気を掴むだけだった。

そんなモヤモヤとした夜を過ごした後のあの夢は、なんだかいつも以上に応えてしまったように感じる。


でも、


スー…スー…


6つも歳上だとは思えないその無防備で幼い寝顔が、まるで不思議な魔法のように私の重たくなった心を軽くして行く。いつからこっちを向いてたのだろう。寝返りうっただけかもしれないけどそれでもやっぱり嬉しくて。

起こさないよう、そっと手を伸ばしさらさらな長い髪を撫でる。あまり寝相の良くない彩さんの髪には既に寝癖が付いてる事がわかって、そんな姿に愛しさを感じつつ少しずつ手を移動させ柔らかくて可愛らしい頬を掌で包み、親指の腹で優しく撫でるとあなたはうっすらと穏やかな顔をした。


 『彩さん…私、、どうしたらいいかな…』


初めて彩さんの家に来た日に見た伏せられたままの写真立ては今でも埃をかぶる事なくあの棚のあの場所に置いてある。捨てる気配のないところを見ると多分、彩さんはまだ彼の事が忘れられないのだろう。別れた今も尚、彼女を苦しめ、心の中に居座り続ける彼の存在が恨めしかったけど、どこか羨ましくもあった。どうしたら私は彼からあなたの心を奪い、独り占めできるだろう。
もし私が男だったら、、女じゃなくて男だったら違ったのかな…あの日の告白だってもしかしたら受け入れてくれたかもしれない。はっきり言われた訳じゃないけどきっと、フラれた理由の1つだろうと思う。性別なんかに囚われたくないと思ってるけど、そんな思いがどうしても付いて回っていた。






11月26日


奈『えぇー、ゆーりちゃんを振る人がこの世に存在するなんてビックリ!!』
 

 『そりゃいますよ…こんなゴミ人間…』


三田『またそんな事言うて。夢莉ちゃんはゴミなんかやない。もっと自分に自信持つべきやで?』


 『自信なんて持てませんよ…』


奈『どうして?!こんなに可愛くて綺麗でカッコいいのに!』


百『まぁまぁ、とりあえず食べよ。今日は三田の奢りやから沢山食べな損やで〜』


奈『そうですね!三田さん、あざすっ!!』


 『ありがとうございます…』


三『3人ともほんま頑張ってくれてるからな!みんなが喜んでくれるなら例え財布がカランカランになってもええわ!いっぱい食べ!』



今日は朝から都内の某撮影スタジオに1日中拘束されていた。

今の時刻は夜の20時で、本来ならとっくに家に帰り、ご飯を作ったりお風呂を沸かしたりして彩さんの帰りを待ってるはずだけど、

"今夜も帰りが遅くなるから夕飯は外で済ませてくる"

なんて連絡が来た。そんな日がかれこれ1週間も続いてるものだから少し落ち込んでいたら、それを察してくれたマネージャーの三田さんがご飯に連れて行ってくれた。撮影で一緒だった百花さんと奈々さんも一緒に。


奈『でも、ゆーりちゃんの気持ち凄くわかるなぁ。相手がノンケだと余計思っちゃうよね。自分が男だったらって…』


 『はい…』


奈『でもそれは諦める理由にしなくていいと思う!好きなら諦めず頑張るべきだよ!あたしの彼女もノンケだったけど、3回フラれたけど4回目でやっと付き合えたから!』


百『お前3回もフラれたん?!』


奈『はい』
 

三『タフやなぁ〜一途というか諦め悪いというか…』


百『麻央、お前人の事言われへんで?うち、何回フッたか覚えてへんもん』


三『何回って5回や!!忘れたん?!酷い人やでホンマ…どんだけツラかったか』


百『覚えてるんや…こわ…』


三田さんの猛アタックから始まったらしい二人の交際はこの業界では知らない人はいないほど有名な話だ。百花さんの過去を知る人たちは、相当な遊び人だった百花さんを彼女一筋に変えてしまった三田さんは本当に凄いと皆、口を揃えて言う。


奈『あたしだって何度も諦めようとしましたよ?でも無理だったんです。あんなに良い子逃しちゃったら絶対後悔する、私にとって一生に一度の恋だって思ったから』
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