* 短編

□いつか
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とうとう本番だ。

NMBの仕事もこなしながら時間を

作ってはギターの練習をした。

大丈夫。

きっとあたしなら練習通りにやれる

はずだ。

自分に言い聞かせながらステージに

向かった。


 「それでは聞いてください。歌うたいのバラッド」






嗚呼 唄うことは難しいことじゃない

ただ声に身を任せ頭の中をからっぽに

するだけ

嗚呼 目を閉じれば胸の中に映る

懐かしい思い出やあなたとの毎日




唄いながらあたしは夢莉の事を考えて

いた。

練習している時は考えないようにして

いたのに…

歌の歌詞があたしの心に響く。

あの日、どうして夢莉を引き留める

ことが出来なかったんだろう。

目を閉じると、そこには夢莉の

幸せそうな笑顔があった。

あたしといる時の夢莉はいつも笑って

いたのに…

その笑顔がだんだん消えていったこと

にあたしは気づいてやれなかったんだ


夢莉からの電話やLINEは『寂しい』

とか『会いたい』などの我が儘なんて

なかった。

いつもあたしを健気に応援してくれて

たのに突き放してしまった…

胸が苦しい。

今更気づいても遅い。

でも、、やっぱりあたしは







本当のことは歌の中にある

いつもなら照れくさくて言っ、、




あたしは夢莉が好きなんだ。

それに気づいた時、

頭が真っ白になってギターを弾いて

いた手が止まってしまった。



そのあとのあたしは必死に唄った。








今日だってあなたを思いながら

歌うたいは唄うよ

ずっと言えなかった言葉がある

短いから聞いておくれ

「愛してる」





唄い終わってから溢れる涙を堪える

ことが出来なかった。
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