* 短編

□二人の足跡
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タッタッタッ…


 「ハァ、ハァ、ハァ…」


ここは何処だろう、、、


彩さんの住むマンションから飛び出してきた私は、いつも通る道を走っていたはずだったのにいつの間にか街灯さえもない、どこかもわからない真っ暗な道に迷い混んだ。

このままでは帰れなくなるかもしれないから引き返した方がいいと頭ではわかってるのに、走る脚を止められなくて全速力で走り続けてる。
なんだか自分の体が自分のものではないような不思議な感覚。
どうしよう、、このままどこに行くんだろう、、本気で帰れなくなりそうで不安感がどんどんと募っていく。

そんな中でも頭から離れなかった。
さっき見た、とても冷たい目をした君の顔。もうその表情には私への愛は微塵も感じられなかった。

もういいや、、私なんか
どうとでもなればいい。
君から必要とされないのなら、
生きてる意味も、甲斐も無いから。


そんなドン底のような闇に蝕まれていた時、





 “ ………り ”




 “ ゆ……り ”




誰?




 “ ゆうり ”




誰かが、、呼んでる?、、











 『ゆーりたん?』


 「んぅぅ…」


 『アカン、ガチでうなされてるやん…どうしたらええかな…』


 「ぅっ…うぅぅ…」


 『、、泣いてる?え、何で?起きて!夢莉!夢莉!どうしたん?なぁ!!』


 「うわわっっ!!びっくりしたぁ、、、え?、、どう…して…彩ちゃん?、、あの男は?、、え?、、」


これは一体、、、


彩『男??何言うてんの?もぉぉ、心配したんやで?うなされてはると思ったら今度は突然泣き始めるから…大丈夫か?怖い夢でも見た?』


 「・・・・」


凄い勢いで体を揺さぶられて目覚めた私の目の前には、さっき見た冷たい表情ではなく、とても心配そうな表情でこちらを見てくる、私の知ってるいつもの彩ちゃんが居た。


あぁ、、そういう事か…


 「、、、プッw」


彩『あ、今度は笑い出した』


 「アハハハハッw」


彩『怖っ、とうとう頭おかしくなったか』


 「なんでやねん!!」


彩『はぁ?w もう意味わからんw』


自分でも意味わかんないや…
でも、本当に良かった…


彩『さっきまでうなされたり泣いたりしとったくせに情緒どないなっとんっ、うおっ!!』


 「、、、ハァァ…良かったぁ…夢で本当に良かった…」


彩『っ、、なんかよくわからんけど…良かったな。よしよし』


どうやら私は夢を見ていたらしい。
何よりもつらく、受け止められそうも無い、とてもとても怖い悪夢を。でもこれは今回が初めてではない。最近の私は悪夢にうなされる事が多かった。その内容は決まって君から振られるものばかり。



私の腕の中にすっぽり収まる小さな君を、力いっぱい抱きしめた。今見てる姿は夢なんかじゃない事を確かめたくて。そんな私を不思議そうにしながらも君は宥める様な優しい手付きで背中を擦ってくれた。これは夢なんかじゃない。この小ささと柔らかさと匂い…
正真正銘、大好きな彩ちゃんだ。

なんだかすごく落ち着く…
やっぱり私には君が必要みたいだ。


 「おかえり。彩ちゃん」


彩『フフッ…ただいま。』
















彩『このスープうまっ!!』


時刻は22時30分。


彩『時間も遅いし、こういうスープめちゃくちゃ有難い』


そう言いながら美味しそうにモグモグ食べる彩ちゃんを見て、


 「 (可愛…) 」


声にならない声が出た。




今日のレコーディングは順調に進み、予定よりも少し早く帰宅する事が出来たんだと嬉しそうに話す彼女はとても可愛らしい。歌ってる時はその場に居る人全員を虜にさせてしまうほどカッコいいのに、私と二人きりになった時だけ見せる我が儘で甘えん坊な一面。そのコロコロと変わる機嫌と表情にいつも振り回されるけど全然嫌じゃないし、むしろそんな素を見せてくれる事に幸せを感じる。



彩『あっ、そういえばコレ食べた事ある?』


 「え、どれ?」


食器を洗ってくれていた彩ちゃんが小さなダンボールを手に持ちリビングに戻って来た。

あっ、そのダンボール、気になってたやつだ。


彩『これな、前LINEで写真送ったやつ。お世話になってるディレクターさんの奥さんからよく戴くんやけど、めちゃくちゃ美味いから通販で買ってん』


ダンボールの中を覗くと丸くて大きなマシュマロたちが沢山入っていた。

そういえばこのマシュマロを口に咥えた写真が送られてきた時は、あまりの可愛さにひとりで悶絶してたっけ…


 「いいの?こんなに食べたら太るよ?」


彩『さすがにひとりでこの量食べたらなw』


 「違うの?」


彩『当たり前やんw お世話になってる人とか共演者とかスタッフさんとかヘアメイクさんに渡そうと思って買ったんですぅ』


 「ふーーん、、、」


子供っぽいときっと彩ちゃんは笑うだろうから言わなかったけど、このマシュマロを渡す人の中に自分の名前がない事が少しだけ寂しく思った。

別にいいけどさ……


彩『はい。あたしのオススメのプレーン』


 「え、、貰っていいの?」


彩『当たり前やん。美味しいなって感じた物は全部、好きな人に食べさせてあげたいなって思うのは普通の事やろ?』


 “ 好きな人 ”


 「、、、」


ほら、この人はすぐこういう照れくさい言葉を全く恥ずかし気もなく吐くんだ。付き合い始めてもう2年経つけど、彩ちゃんのこういう所にはいまだに慣れない。


 「おかしいね〜。さっきは私の名前出て来なかったのにね〜。」


彩『え?言うたやん。』


 「言うてない。」


彩『言うた!』


 「言うてない!お世話になってる人と共演者とスタッフさん、ヘアメイクさんしか出て来なかった!」


彩『ほら、入ってるやん。』


 「はぁ?」


彩『お世話になってる人。ここに入ってる。』


 「・・・」


、、それって…


彩『ゆーりたんの真似♪よくWEARに出てくるやん。「お世話になってる方」。全部じゃないけど、あたしがあげた物、たまに載せてくれるのすごく嬉しいで』


 「彩ちゃん…」


彩『日付変わってから夢莉が投稿したあのネコの写真もな。匂わせてんな〜ってw』


 「っ、あれは別に関係ないから!勘違いしないでくださーい。」


彩『え、違うんや。』


 「 (本当はそうだけど…) 」
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