短編集

□もう1度、その恋を
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ここは大自然の中に一軒だけ建てられた小屋だ。

周りは木々に囲まれ、森の中なのだと一目で分かる。

空を飛んで少し見渡せば山までありやがる。

こんな小屋だというのに、やたらと設備は整っていて食事にも困らない、まるで金持ちの家だ。

ブルマが手配したということは一目瞭然だな。

「・・・・・・」

寝起きには頭がよく働かん。

自分の隣に人がいた形跡があるベッドを見て、少し考えるところから朝は始まる。

俺は昨夜、誰かと一緒に寝たのか?

いや、添い寝だとするわけがない、気のせいだ。

「寝相だな」

独り言を呟き、ベッドから降りてスリッパを履く。

なぜ俺がここで生活しているのかは、初めから気にすらしていない。

恐らく修行をするためだろうが、分からないことがある。

それは。

「よぉ、ベジータ。気分はどうだ?」

寝室から出てリビングの扉を開ければ、こいつがいることだ。

「いつもと変わらん」

「そっか」

パジャマにエプロン姿でキッチンに立つ俺のライバル、カカロット。

この光景にはもう慣れたが、だからといって疑問が消えたわけではない。

なぜこいつがこの家にいる。

「もうちょっと待っててくれよ」

なぜ料理をしている。

「おめぇ目玉焼きは固焼きがいいんだろ?」

なぜそんなことを知っている。

「あ、コーヒー飲むならおらのも入れてくれよ」

なぜ俺たちは、1つ屋根の下で共に暮らしているんだ。

「砂糖は」

「3つだろう。ミルクも2個持って行ってやる」

「さんきゅー」

俺もなぜカカロットのコーヒーの飲み方を知っている・・・にしても、砂糖3つにミルク2個だと?

甘ったるい飲み方しやがって。

まぁ、ガキと一緒にココアに砂糖を入れて飲んでいたこいつにしては上出来か。

棚からマグカップを2つを取り出し、その1つに砂糖とミルクを放り込む。

そしてカカロットが料理を作る前にセットしていたのであろう、既に出来上がったコーヒーを2つのマグカップに淹れていく。

「おめぇが飲みたがってたやつだ。朝起きたらブルマから届いてた」

「俺が飲みたがっていただと?」

「おう」

「そうだったか?」

「・・・ああ。そうだぞ」

正直記憶にないが、確かに俺好みの香りがする。

「さてと、できたぞ。すぐ持ってくからな」

目玉焼きをフライパンから皿に移すカカロットを横目に、俺はテーブルにマグカップを置き、箸などの用意をした。

よく見ればカカロットが履いているスリッパは、俺のものと色違いだ。

色違いのマグカップに色違いの箸、ランチョンマットまで揃えてある。

これではまるで・・・。

「まるで恋人のようじゃないか////」

「なんか言ったか?」

「っ!?////き、貴様!////いるならいると言え!////」

「すぐ持ってくって言ったじゃねぇか。なに顔赤くしてんだよ」

キョトンとした顔のカカロットの両手には、トーストと目玉焼きが盛り付けられた皿があった。

ますます恋人、いや、下手したら夫婦のような雰囲気が漂う。

「くそったれが////」

「ベジータ?」

「なんでもない!////さっさと食うぞ!////」

顔を覗き込まれるのは困る。

顔が近いうえにこいつの上目遣いが、俺の調子を狂わせるからだ。

俺は乱暴に椅子に座り、朝食をかき込んだ。

「なぁ、気分悪りぃならちゃんと言えよ?」

カカロットも向いに座り、朝食を口に運ぶ。

「どこも悪くなどない。大して歳も変わらないくせに俺を年寄り扱いするな」

「そんなんじゃねぇよ。ちょっと心配してるだけだ」

こいつがここにいる理由など、1つしかない。

修行のためだ。

「ハッ、心配されるほど老いぼれていない」

俺の気も知らないで、こいつは。

コーヒーを飲み干した俺は、立ち上がって空になった食器を持った。

「だが、心配なら久々に組手でもするか?」

「へ?」

「最近イメージトレーニングしかしていないだろう。そろそろ体を動かしたいと思っていたところだ」

俺も丸くなったもんだな。

こいつを安心させるために、それだけのために組手をするなんざ。

「で、でも」

「何を渋っている。それがここに俺たち2人で暮らしている理由だろう」

「!」

カカロットは一瞬、驚いたように目を見開き、片眉を下げながら笑顔を見せた。

「ははっ、そうだな。おらたち、修行するために一緒に暮らしてんだもんな」

「フンッ。分かったらさっさと飯を食って外に出ろ。先に行ってる」

「も、もう行くんか!?」

「?ああ、俺は食い終わったからな」

「あ・・・そっか」

1歩踏み出した俺を見て、カカロットは腰を浮かせていた。
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