長編集

□クリリン目線
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それは、命懸けで悪のサイヤ人から地球を守って、ベジータが去ったすぐ後のことだった。

「せっかくトドメ刺そうとしてくれたのに、ごめんな。クリリン」

クリリンは全身ボロボロの悟空に肩を貸し、ゆっくり空を飛んでいた。

悟飯には先に病院へ行かせて、すぐに治療できるよう手配してもらっていた。

「いいよ。お前のことだし、何か考えがあるんだろう?」

逃げようとしているベジータにトドメを刺そうとした時、悟空に止められた。

刀を振り下ろすか否か、かなり迷ったが悟空のことだ。

ここまで死闘して生かしておく理由があったに違いない。

でも。

「実はな、何もねぇんだ」

「何もない?」

「ただベジータに死んでほしくないって思った。それだけなんだ」

これは予想外の答え。

クリリンは、そっか、と呟くしかなかった。

「おらさ、ベジータと戦ってワクワクしたんだ」

「ははは!お前らしいや」

「けど、それ以上にドキドキしたんだ」

「え・・・?」

思わず足が止まる。

「すげぇドキドキしてよ、こんなの初めてだ」

疲れ切った顔に浮かべている笑みに、クリリンは2つの意味でドキッとした。

1つは、初めて見る悟空の表情に心臓が高鳴る音。

そしてもう1つは、嫌な予感。

(まさか、あのベジータのこと)

クリリンは首を横に振った。

悟空は地球で育ったが、生まれはベジータと同じ惑星。

ベジータは、生まれて初めて出会ったサイヤ人という自分と同じ種族。

きっと惹かれるものがあったのだろう。

「そりゃあ殺すか殺されるかの戦いをしたからな!俺だってドキドキするよ!冷や汗止まらないぜ!」

鈍い悟空のことだ。

ドキドキしたという感情の正体が何なのか、到底分からないだろう。

「そうじゃなくってよ、なんかこう、心臓がドクドク言ってるっちゅーか・・・意識が全部持ってかれちまうみてぇな」

「戦ってるからな!心拍数も上がるし、意識も今までで1番集中したんだな、きっと!」

「そうなんかな〜」

「そうだよ!それにお前、戦う直前まで死んでたじゃないか!余計に気が立ったんじゃないのか?」

「そういうもんなんか〜?」

「それより、病院で注射されるんじゃないか?」

クリリンは再び動き始めた。

話を逸らして。

「注射!?おら嫌だ!」

「文句言うなよ。俺が側にいてやるからさ!」

「うぅ〜、絶対ぇついててくれよ?」

「当たり前だ!俺は悟空の1番の仲間であり親友でありライバルだからな!」

「へへっ、頼もしいや」

思えばこの時、クリリンは頼りにされている自分に酔っていたのかもしれない。

1番最初に出会ったライバルで、1番の親友で・・・その立場に安心しきっていたのだ。

それと、心のどこかで、悟空は誰のものにもならないって、当たり前のように思い込んでいた。
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