リクエスト小説

□ヒーローは悪役になりたい〜後編〜
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3人での生活が始まってしばらくし、それぞれ慣れてきた頃。

「今日はゼールの体の調子がいいからデートしてくるな!」

「勝手にしろ」

『そう嫉妬するな、ベジータ。心配せずとも夜まで帰らん。2人でゆっくり過ごしてくる』

「ああ、退屈すぎてカカロットが寝たら無理せず帰ってこい」

ゼールとベジータの間に火花が走る。

カカロットはその光景を見て口を緩ました。



ゼールと悟空のデートは街の中を歩くだけだ。

住民たちはもう魔王を恐れることはない。

「魔王様、妃様、どうもこんにちは。妻がカップケーキを作ったんです」

「よろしければどうぞ」

「お、美味そう!ありがとな!」

「私はいらん」

「んなこと言うなって。食ってみろよ」

「んぐぐ!」

悟空に無理矢理カップケーキを口に入れられ、ゼールは仕方なく口を動かし飲み込む。

「甘いな」

「美味ぇだろ?ここじゃあ限界があるけどさ、鏡の国の外では美味ぇもんがたくさんあるんだぞ」

「その食べ物を食べたいと思うか?」

「そうだな。別に戻りてぇとは思わねぇけど、食えたらいいな」

カップケーキを食べて笑う悟空を愛おしく思い、そっと腰に手を回した。

(世界を支配するために鏡の国を広げるつもりだっだが、今は悟空の娯楽のために世界を支配したいと思える)

そんなことを思っているゼールの頭を読み、悟空は密かに笑みを浮かべる。

(俺のために世界を支配か。残念だな。世界を支配するのは俺だ)

頭を読むことができる悟空。

自分の頭の中を読まれないよう、考えに鍵をかけるなど容易いことだ。

(俺は、俺が今まで守ってきた世界を支配してみてぇんだ)

「へへっ」

(そんなに私とデートとやらをするのが楽しいのか。悪くない)

何も知らないゼールは、悟空の頭を優しく撫でた。



住民たちは近づかない、街から離れた場所。

野原や家はなく、ただの荒野が広がり、等身大の鏡が所々に埋め込まれている場所。

その鏡の上に、ゼールと悟空は腰を下ろした。

「前にも思ったけど、この世界は鏡に囲まれてるんだな」

すぐ後ろには鏡の壁。

『ああ。星は丸いから終わりがないように感じるが、ここは球型ではない。この壁を伝って歩けばここへたどり着く』

「出口はないんか」

『あの占い師の老婆がやったように、鏡の国に空間を作ることならできる。出口がないと言えばないな』

魂や悟空が引き込まれるように、入口はあっても出口はない。

それが鏡の国。

それが鏡の世界。

「おめぇも出ることができねぇんだな」

『鏡の国から出る必要もないがな』

悟空は後ろにある鏡の壁に触れた。

「この先はどうなってるんだ?」

『無、だ』

「む?」

『何もない。ただ暗闇が広がっているだけだ』

「暗闇・・・」

『それもおかしいな。大地や空がない。光も影もない。無の空間だ』

「入れねぇんか?」

『簡単ではない。攻撃してみろ』

悟空はゼールに言われた通り、気を上げ超化して鏡を殴った。

シュウゥゥゥ・・・

煙は上がったものの、音もなければ手応えすら感じられない。

「殴った感覚がねぇ」

『そうだ。これを割るには自分も無に近い存在にならなければならない』

「無に近い存在?」

『技があるらしいが、それを習得することができるのは神のみ。神すらかなり困難な道のりと言われている』

(身勝手の極意だ・・・)

悟空はそう直感した。

そして、自分にはこの鏡の壁を破ることができると。

(身勝手の極意を習得したわけじゃねぇけど、またいつか、できる気がする。・・・その時が来たら、また)

「もしこの中に入ったら、どうなるんだ?」

『死ぬ』

「死ぬ?」

『うむ・・・いや、死すら存在しない。無に支配されて消滅する。己も無になるのだ。感情も何もない。ただの無に』

「ふーん」

ずっと気になっていたのだ。

この鏡の国の先には何があるのか。

そこに行くとどうなるのか。

『こんな答えで満足か?』

「うん。充分だ」

今日はそのためにゼールと城を出た。

(もう用済みだ)

『ぐっ・・・!』

「ゼール?」

『すまない。傷が開いたようだ』

胸を押さえ、ゆっくりと地面に足をつけるゼール。

「飛べるか?」

『城までなら行ける』

「肩、貸すぞ」

悟空の肩に腕を回し、体重をかけながら城へと飛んだ。
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