リクエスト小説
□ヒーローは悪役になりたい〜後編〜
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ーーー過去ーーー
ベジータが鏡の国へ来て、丸1日の時が過ぎた。
といっても、ここに時間の概念はなく、好きな時に好きなことをやっている。
「今日はロエのとこに行ってきたんだな」
ベジータに背を向けたまま悟空が言った。
「貴様はずっと俺の行動を見張っているのか」
殺気を匂わせながらベジータが言う。
『思いあがるな。私のことも見張っている。ちなみに私も悟空の頭の中なら読める。互いに行動を見守っているのだ』
ゼールはそんな2人の会話を聞いて口を挟んだ。
「貴様に聞いてない」
「ゼール、挑発すんなよ」
『フン』
「ん・・・////」
悟空に怒られたゼールは、ベジータに見せつけるように彼の頬を撫でる。
「俺のカカロットに気安く触るな!」
当然のようにベジータの気が上がった。
『お前の?フフフ、笑わせてくれる。愛してもいないくせに所有物気取りか』
「ゼール!」
『・・・・・・』
流石に悟空の怒りにも触れてしまい、黙るゼール。
「出てけ、ベジータ」
「貴様っ!」
「ベジータ」
「・・・っ、くそっ!」
少し振り返った悟空に睨まれたベジータは、足早に部屋を出て行き、扉を乱暴に閉めた。
『血の気の多い奴だな』
「おめぇも嫉妬深ぇやつだな」
そう言いつつゼールと悟空は、扉には目もくれず。
「早く治るといいな」
『口ばかりが達者だな。ロエにしたように、お前が気を送ればすぐ治るというのに』
「でも嬉しいだろ?俺に看病されて」
『全くだ。だから困る』
ベジータとの戦いでかなりの傷を負ったゼールは、全回復するまでにかなりの時間が必要だった。
『ベジータを帰さないところを見ると、まだ惚れているのか?記憶が戻って思い出したか』
「それなら記憶がない方がいいって言うんだろ?記憶がなかったら、また俺はベジータを好きになるぞ」
悟空は仰向けになっているゼールの上に足を広げて座った。
そして、手を喉元に置き、見下ろす。
「俺がまたベジータのことを好きになったら、ベジータはおめぇを殺して元の世界に戻ろうって言うだろ?おめぇはそれでいいのか?」
首に冷たい指先が触れ、思わずゾクッと冷や汗が背中を流れた。
「ベジータ鏡の国の魔王に捕われた恋人を助けるヒーローになって、おめぇは悪役だぞ」
『それは違う。私の妃をたぶらかすベジータが悪役となり、私は妃を取り戻す英雄となるのだ』
「・・・・・・」
その場合、ベジータの恋人をたぶらかすゼールが悪役であり、ベジータは恋人を取り戻す英雄となるのだが。
しかし悟空はあえて何も考えず、ゼールの首から顔へ手を伸ばした。
「俺はゼールのこと好きだぞ。ベジータを城に置いておく理由、分かってんだろ?」
『・・・お前の性欲にはついていけん』
「へへっ」
可愛らしく笑い、額に軽くキスをする。
「おやすみ、ゼール」
『何かあったらすぐ目覚めるからな』
ゼールは眠りについた。
寝顔を見て悟空は、
「本当に、好きなんだぞ。・・・洗脳されてる間はな」
一瞬だけ表情を無にし、またパッと笑顔に戻った。
ゼールの部屋を出ると、見るからに腹を立てているベジータの後ろ姿が。
「ベジータ」
口元は笑っているが、冷静な声で名前を呼ぶ。
「ゼールは眠ったぞ。回復に時間がかかるんだ」
「・・・今の貴様とは、話もしたくない」
「・・・・・・」
なぜゼールを、なぜ自分ではなくゼールを。
そんな心の声を聞き、悟空はさらに笑みを深くするだけで、去っていくベジータを止めはしなかった。