駄文小説

□嫉妬による苛め
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 目が覚めると、薄暗く見慣れない部屋がぼんやりと視界に映った。
「……ここ、どこ?――えっ、なにこれ?!」
 がしゃ、と手足を縛る金具が音を立てる。身体を見下ろすと、着ていたはずの制服はそこにはなく、高野茉莉は下着姿でX字に拘束されていたのである。
「〜〜っ!」
 拘束具から逃れようと試みるが、茉莉のような細い身体では、ただがしゃがしゃと音を鳴らすだけだった。
 改めて部屋を見渡すと、窓はなく、今が昼なのか夜なのかもわからない上に、ここがどこなのかも見当がつかなかった。それが茉莉の恐怖心を一層煽っていた。
「あら、お目覚め?」
 不意に、背後から透き通った声が聞こえてきた。唯一自由に動かせる首を回して振り向くと、ひとりの少女が嘲笑的な笑みを浮かべていた。
「朝戸さん……?どうして……」
 彼女は同じ高校の秀才と噂される朝戸由美香だ。が、同じ高校といっても、クラスは別であり、まともに会話をしたこともなかった。
「朝戸さん……。これ、あなたが……?」
「ええ。そんな真っ白な下着なんてつけちゃって。自分が純白な女の子だって演じちゃってるのかしらね」
「……っ!み、見ないでよ」
 言われなくても恥ずかしい格好なのに、改めてそれを嘲笑され。茉莉は顔を赤く染める。
 しかし、ほとんど接点のないはずの由美香が、なぜ自分を拘束などしているのだろうか。
「私、あなたに何かしたの?」
「何もしないわよ。ただ、あなたがとてもお勉強のできる子だと聞いてね。ちょっと意地悪したくなったのよ」
 確かに茉莉は、由美香ほどではないが、成績優秀で、その勤勉さや真面目な性格から、生徒や教師たちからも一目置かれている。しかし、それだけのことでこんな辱めを受けるなど、全くもって、理不尽で理解しがたい話である。
「私なんかより、朝戸さんのほうがよっぽど優秀じゃない。秀才なんて言われてて」
 すると、由美香は気味の悪いほどの笑みを浮かべ、足早にこちらへ近づいき、気づいたときには茉莉の目前に迫っていた。
「そうやって謙遜しちゃうところも、いちいち癇に障るのよ。優等生ぶっちゃって。あなたが転校してこなければ、私はただひとり、注目を浴びていられたのに」
 由美香は、茉莉に身勝手な嫉妬をしていた。可憐で真面目な茉莉は、今年の春に転校してきてまもなく、それまで秀才美人としてちやほやされていた由美香から注目の場を奪っていった。由美香にとって、茉莉は目障りでしかないのである。
「そんな……。私、そんなつもりじゃ……」
「だから今日は、あなたが優等生でいられなくなるくらい、たっぷりいじめてあげる」
 由美香は不敵な笑みを浮かべると、踵を返しその場を後にした。
(どうしよう……逃げなきゃ)
 茉莉はまたも手足を必死に動かしてみるが、金具の音が虚しく響くだけだった。
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