8年前の節、庁舎前にて

□プロローグ
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「おい、しっかりしろ」

今にも涙がこぼれそうな青色の瞳が揺れる。私が死にかけの際に泣いてくれる人がいたんだなぁ、なんて呑気に思う。実際はそれどころじゃないことは分かっているが、どうにも頭が追いつかない。
あれ、私死ぬの?

「ほら、はやく……救急車……呼ば……なきゃ」

「もう喋るな」

降谷もそんな顔するんだ。初めて見た、泣いてるところ。
だけど、私はもうダメだ。多分だけれども。ごめん、降谷。
はぁ、最悪な誕生日だ。降谷の泣き顔は見るわ、自分の命はなくなりそうだわ、こんな誕生日ってある?
降谷からの誕生日プレゼント、私、楽しみにしてたのに。

「ほら、これ麗への誕生日プレゼントだ。だから死なないでくれ」

降谷が懐から取り出したのはオシャレなクラフト素材の紙袋。「今頃かよ。遅かったな、バカ」そう言いたいけど、うまくお腹に力を入れることができず、喋れない。残念だけど私はそれを受け取ることが出来ないと思う。中身が気になって、仕方が無いけど。

「ふる……や。ごめん。みどり……川とのやく……そく、ま……もれな……かった」

私も泣きながら必死に言葉を繋ぐ。何言ってるか、降谷に届いたかな。
お空の方へ行っても私は大丈夫。寂しくなんてない。あいつらがいるから。
だから、そんなしけた顔しないで。

心配なのは降谷、貴方なの。貴方を1人にしたくなかったけど、ごめんね。私はここまでだ。大丈夫、降谷には新しい仲間がいるから。
お願いだから、自ら死ぬようなことだけはやめて。

「おい、死ぬなよ!麗!?」

痛いって、そう強く揺らさないで。ええ、これは出血多量かな。最後だけでも痛いのは嫌だったのに。私のお腹当たりはとても熱く感じる。残念、天が私をお呼びだ。

神様、どうか最後のお願いだけでも聞いてほしい。8年前、萩原が死ぬ一年前に戻らして欲しい。

困った時の神頼み。今回は本当に残念だけど、叶うようなお願いじゃない。
本当に残念だ。短かったな、私の人生。

「じゃあ……」

私は最後にそう降谷に笑いかけ、静かに目を閉じた。ほんとにごめん、降谷。


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