8年前の節、庁舎前にて

□夕暮れ
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ぱっちりと目が覚める。確か、私は麻薬取引現場で敵にお腹を撃たれて死んでしまったんだっけ。
目の前にはパソコンが綺麗に揃えられていて、少し多めの書類がその脇に積まれていた。
死んだ後もこんなに働かされちゃあ、いくら何でも酷すぎる。
目の前の光景になんとなく懐かしさを感じながらも呆然としていると、誰かに肩をグラグラと揺らされた。

「え、神様!?…………って、なんだ、緑川じゃん」

びっくりして振り返ると、そこには見慣れた同期が立っていた。「まったく、驚かすなよ〜」と軽口を叩いておく。
私、ほんとに死んだんだ。何よりも、死んだはずの緑川がいる事で想像がつく。

「へ、麗?どうしたんだよ」

私はデスクから立ち上がってきょとんとしている緑川の肩を軽く叩いた。キョトンとしても私は騙されないぞ。

「久しぶりだね、緑川。松田や萩原達は元気?」

「お、、おう?」

なんだ、その腑抜けた返事は。久しぶりに会えたのに、反応が薄くて私は悲しいや。もしかして、怒ってる?

「あ、緑川ごめん。約束守れなかった」

一応謝らないと。降谷のそばにいて支えることはできなかった事だし。

「え、約束?」

あれ、さっきから今ひとつ話がかみ合ってない気がするのは私だけだろうか。

「え、緑川が頼んできたんでしょ。降谷をよろしくって……」

「僕がなんだって?」

「え?降谷……、さん?」

その声の主の方を向くと、怪訝な顔して私のことを見ている上司がいた。あぶないあぶない、また降谷と呼び捨てに仕掛けた。でも、なんでここに降谷がいるんだろ。ここは天国じゃないの?

「麗が僕のことをさん付け!?さっきの事といい、熱でもあるんじゃないか?」

そう言って降谷は自身の手を私の額へと当てた。「何するのよ」と、その手を振り払えば、降谷はまた神妙な顔をして私を見た。どういう事だろ、私が降谷の事を『さん付け』しなかったのは丁度4年ほど前以来。その後は降谷が私の上司になったからそれ以降はきちんとさん付けして呼んでいる。
ちょっと待てよ、今は何年だ?

「ねえ、降谷。今は何年?」

「え、20××年だが」

頭大丈夫か、とでも言いたそうな金髪の目の前の男は哀れなものを見るような目でこちらを見てくる。
20××年……。私が死んだあの日から、8年前だ……。

私は死ぬ間際に願った神様へのお願いを思い出す。
『萩原の死ぬ一年前、せめて八年前に戻してください』

確かこんな感じだった。本当にかなった……。現実味が無さすぎて正直笑えてくる。
今のことが現実なのかどうか、私は自身のほっぺたをつねる。痛いからこれは本当なんだ。

「やった、私、タイムスリップした」

「「は?」」

降谷と緑川の間抜けな返事が聞こえた
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