hpmi 2 麻天狼
□かみさま、ひとつだけ
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イケメンはどこまでいってもイケメンだった。
何とか十数社受けて一社だけ採用通知が来た。心が折れかけていた私は喜んでその一社に再就職を決めたのだった。
最初は会計の事務から入り、営業をしていた頃を考えるとパソコンと数字に向き合っている分楽に感じる。正直、ホワイト企業とは言いづらかった。
残業も結構ある。会計事務になにが残業かって?
ギリギリに飛び込んできた企画の予算案が出来て急ぎで納品だったり、なんなのバカなの?
再就職から数ヶ月過ぎた頃には仕事にも慣れ、他のスタッフとも打ち解けていく内に自分の部署以外でもっとブラックな部署があると噂に聞く。それは医療機系営業だそうで。
自分が営業経験ある分、そこに配属されかねなかったことを想像するとゾッとした。
そんなこんなで、自炊なんて出来たのは最初だけ。
こんなんじゃ嫁入り練習なんて出来ないし、もはやそもそも相手すら出来ないんですけど。
ひーひー言いながら都会の波に揉まれながら働くこと3年。
私に辞令が降りた。
まって、嘘でしょ。嘘だと言って。
来年度からの異動辞令が張り出された掲示板を見上げること、数分。いつのまにかあんぐりと口は開いていた。同部署の友達に、ポンと肩を叩かれる。
「だ、大丈夫…?」
『大丈夫に見えますかぁぁ?』
涙目で振り替えれば、よしよしと励まされるが無情にも辞令は変わらない。
ブラック度合い最強と噂の、医療機系営業部への異動が決まりました。
四月から異動とのことでまだもう少し今の部署で引き継ぎを進めていくが回りも腫れ物をさわるかのようにあわれみの目を向けてくる。
ううう、そんなにヤバい部署なのかよ。。。
異動前から辞表書きたくなる心境にさせるのって一体全体どんな状況?
つらいやめたい、会社に殺される前にしにたい。
どれだけ現実逃避しても無情にも月日は流れていく。ついに来た異動日。デスクの上にあった細々したものだけ小さな段ボールに詰めて新しい部署の門扉を叩く。ああ、さらば私の割りと平穏な生活。。。
『おはようございます!』
「おはよう、君は…」
『今日から配属されました、美鷹です。
よろしくお願いいたしますっ』
「美鷹くん、よろしくね。」
ぺこりと挨拶を済ませると君のデスクここねと案内される。
お、おうふ……
私の隣のデスクに、見たことのない書類やファイルが山となって積み上げられている。え、もうすでにヤバいんですけど。ここで生きていける気がしない。この視界に映ったものがもはや死刑宣告。
とりあえず自分のデスクに荷物を置き、隣の書類の山の向こう側を覗き込んで声をかける。
『あの、今日から配属されました美鷹です、よろしくお願いいたします。』
「えっ!あ、は、はい!こっこちらこそ!よよよよよ、よろしくおねがいします!」
『あ、わ、』
「うわわわ!」
ビクリと肩を震わせたスーツ姿の彼から返事があり、その後にバサバサバサバサー!!!と書類が崩れ雪崩を起こした。二人して反射的におさえる。
『ふぅ…』
「すっすみません…」
ふと、視界には赤く揺れる髪が入ってきた。
ぱちり、と目線が合う。透き通る翡翠の瞳。
え、と時間が止まる。
瞳の下には深く濃いクマが携わっているが、昔の面影が微かに残る、初恋の相手がそこにいた。
『どっぽくん…?』
「え、?」
『あ、いえ、隣なので何かとお世話になると思うのでよろしくおねがいします。』
接点が多かったわけでもないし、小学生の頃のことなんて覚えてるわけないよね。私も初恋の相手だったから覚えていただけで、接点の少なかった男子に今会っても分からないと自信をもって言える。
それにしても………イケメンにソダチスギデハ?
現金な私はちょっぴりやる気を取り戻した。