hpmi 2 麻天狼

□かみさま、ひとつだけ
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謝罪をするため時間が欲しいとお願いすると、了承の返事をもらうことができた。時間があるときに、となったがお互いに大きな納品がありその後の病院スタッフへの機器説明など忙しい日々が続いていて私たちに余裕はなかった。
それもこれも、あのクソハゲ課長のせいだ。なぜあんなに仕事をしない?なぜ役職を得ることができたんだ?


日頃の恨みを心の中でも晴らしながら仕事をこなしていく。よし、今日はあと少しで終わりそうだ。隣のデスクでもふう、と一息ついたのが聞いてとれた。


『かっ!』
「!?」
『か、かかかか観音坂さん!』
「ははは、はいぃぃぃ!!」


私は思いっきりどもったし、緊張からか思ったより大きな声が出てしまった。そのせいで観音坂さんも肩を思い切りすくめてみせる。


『あ、急にすみません……あの、もう少しで終わりそうなんですが観音坂さんはどうですか?』
「ああ、俺も頑張れば?あともうちょっとで終わりそう、だけど…」
『終わってからでいいので、お時間いただいてもいいでしょうか?』
「は、はい…」
『でっでは終わったら声かけますっ!』



ひぃぃぃぃ、ちょっと話しただけで口の中が乾いた。冷えきったコーヒーを飲みきり、デスクに向き直る。さて、頑張ろう。



──・・・


『終わったぁ…』

はぁー、と長いため息と共につい漏れでた。ちらりと隣に視線を移せば、私の声に反応した観音坂さんとバチリと目が合う。


「お疲れ様」
『お疲れ様ですっ』


とりあえず謝ろう。まずはそこからだ。
意気込んで口を開こうとすれば、帰り支度を促されて駅までの間で話そうと提案をうける。出端をくじかれたが、めげない。めげないぞ…。

いそいそと鞄に持って帰る分の資料とタブレットを詰め込み、ビジネスコートを羽織る。行こうか、と少し先を歩く観音坂さん。その背中は少し丸まっていて猫背だなぁ。とぼんやり見つめた。

って言ってる場合か!


『あっあの、突然あんなことしてすみません。』
「ああ…いや、まぁ酒の席でのことだし、仕方ないんじゃないか?」


そう言ってくれはしたものの、声は裏返っていて仕方ないと思ってない様子。ううう…過去の自分なにしてくれてんの…。


『ひとつ誤解しないで欲しいのは、酒が入ってあんなことしたこと今までないんです。誰彼にでもする訳じゃないんです…!むしろこんなこと、わたしもはじめてで、、、その、信じてくださいっ!』

「誰彼にでもしなくても、俺とはでき…っていや!何期待してんだ、たまたま…そのやってしまった相手が俺だからとかじゃなくてたまたま!俺だっただけで、」


ブツブツと小さな声で早口に紡がれる言葉達は私の耳には届かない。な、なんていってるんだろう…謝ってすむか、この尻軽女とか…?いやいや、独歩くんがそんな事言うはずない!


『こんな、昔あんなデブだった私が、すみません。あんな私を知ってたら余計に嫌ですよね…』

「えぇっ!?いや、そんな。俺こそ一昨日も言われるまであの美鷹さんだと気づかないって失礼だったよな…それに初恋の相手が俺だなんて、ああ、いや、これはきっと聞き間違いかもしれない…」

『いいえ!私の、主に見た目が変わってたし随分前の話だから当たり前ですっ…!
そ、それに観音坂さんは仕事でまっすぐでいつもがんばっててやさしくて、私が異動してきた時も忙しいのに丁寧に教えてくれて営業一緒に行ってくれたときも、私をよろしくおねがいしますって頭下げてくれたりして、頼りになって…ほんと、昔から、優しくて、』


…あれ、私、また独歩くんに恋してる…?

駅に向かいながら彼のしてくれたこと、みていたことを自分の爪先が交互に視界に入れながら羅列していけば、突如として自覚した。
ぶわりと、自分の中で熱が弾けてじんわりと何か温かさが湧いてくる。


『すきです。』
「え…?」


あああああ言っちゃってた!?つい口から漏れてた!?!?え、なにいってんの自分。雑踏にかき消えてくれたりしないですか!?って、独歩くん目ん玉見開いてこっちみてるし確実に聞こえちゃいましたね、はい!


『ごごごご、ごめんなさいこんな女願い下げですよね!』
「は!?あ、いや、美鷹さんはいつもやさしくて相手を思いやってて、こんな俺にまでコーヒー淹れてくれるし、挨拶も必ず顔を向けてしてくれるし、昔の体型とか、そんな見た目の話どうでもよくて、いつも笑顔で場を明るくしてくれて…」


『、すみません、こんなときでも優しいんですね。』


私が自分を卑下して言ったからか、彼は私のことを褒めてくれる。気を遣わせてしまった。でも、褒められて嬉しく感じてる私はズルい。

ともあれ、言ってしまったものは仕方がない。ここで言い訳して逃げたらまた同じことの繰り返しだ。
昨日願った、"変わりたい"と勇気を振り絞って連絡したんだ。昨日の勇気を無駄にしない。
一度だけ。この一度だけ、諦めずに頑張ってみよう。当たって砕ける。後は野となれ花となれだ!


『もし、もしよければ、また、考えていただけたら嬉しいです。』


言った!言ったよ…!!………
帰ってくる返事の内容を受け入れる覚悟をしていたが、待てど暮らせど返ってくるのは無言だった。
ああ、無理かぁ。返答に困らせているんだろうな、きっと優しい独歩くんのことだ。傷つけないよう言葉を選んでいるはず。笑おう。気を遣わないでって。


『あ、はは…考えるとかの前に、無理ですかね…?』

涙がこぼれないようにきゅっと眉根に力を込めて笑いながら言った。彼の表情を伺えば、オロオロと視線が泳いでいる。と思えばまっすぐこちらを見つめてくる。


「…時間を、ください…」
『っ…!はい!』


考えてくれるという返答にほほが勝手に緩む。少しでも希望をもった私を他所に、彼にとって実はキャパオーバーで整理する時間も必要だったのだが。


改札につくと、独歩くんはじゃあ気をつけて。と踵を返した。え、と声を漏らせばまだ仕事が残ってるとのこと。


『そんな、終わるまで待ってたのに…』
「美鷹さんなら、そういうと思ったから。」

そうやってくすりと小さく笑みを見せる彼。私まで遅く返らせるわけにはいかないしな、じゃあまた明日と会社に向かう猫背を私は見つめていた。


そうやってまた私を喜ばせて惚れさせる。
自覚したからか、余計に。
答えは怖い。でも、今はこの恋心を愛でよう。
アラサーになって、こんなにドキドキときめけるのなんて、きっと最後かもしれない。
できれば、実りますように。そうそっと願った。








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