hpmi 2 麻天狼

□かみさま、ひとつだけ
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美鷹さんが俺を好き?まさか。騙されてんだろ?いやでももし、あの真宮さんと付き合えたら。恋人ってなんだ?恋人…って何するんだっけ。デートしたり手を繋いだりハグしたり、キスしたりセッ……………………………………俺が?美鷹さんと…?おっ、おこがましい…!これはドッキリ、そうに違いない。
結局この話を掘り返す勇気も俺には無く、返事は返せぬまま日が過ぎていった。この話を一二三にするとヘタレ!と泣くほど笑い騒いで貶されたのは別の話。







───………



私の暴走告白事件。あれからも普通を装うも返事をもらえる気配はない。確実に引かれてんじゃん。立ち直れない。もういっそ、なかったことにしてもらおう。そうしよう。なけなしの勇気を振り絞ったが、その勇気は日が経つにつれて萎んでしまい私の結論はそう至った。きっとこのまま無かったことになる可能性が高い。仕方がない。そう言い聞かせてもうすでに諦めモードに移行していた。



「おい、観音坂、美鷹。」
「は、はい…」
『なんでしょうか?』



机に積み上がった仕事を消化するのにガタガタとデスクでキーボードを打っている私と観音坂さんにお声がかかる。一体なんでしょうか仕事の邪魔すんなハゲ課長。おっと口が悪くなってしまいましたわオホホホホ。キャラ崩壊するぐらいにはまじで仕事終わらない。



「****病院の契約を取ったやつが明日から地方転勤でな。その後の引き継ぎで観音坂がエリア担当になるんだが、今日そこの接待が入った。顔見せも込めて観音坂行ってこい。元担当は明日行くから欠席だけどな。お前だけじゃ花がないし不安だからな、美鷹も一緒に行くことになってる。」



は、はぁ!?この仕事の終わらなさに加えて飛び入り接待だと…!いや、病院のお偉いさんがそんな急に予定を入れるわけがない。きっとこのハゲ課長が伝え忘れてて当日慌てて言ってきたんだろう。ありえない。ほんっとうにありえない!!



ちらりと独歩くんを盗み見れば、魂が抜けかけている。分かる。私も同じ気持ち。でもエリア担当になるとなれば独歩くんはどうしたって断れない。この惨状の最中彼一人で向かわせるのは余りにも不憫だ。最近私は彼に迷惑をかけてばかりだし、少しでも力になれればと頷いて返したのだった。








仕事は終わってはいないが会食の時間は刻一刻と近付いてきて渋々切り上げる。会食の相手はかなり気がおおらかで明るく接してくれる人物だった。それはそうと、お酌するがペースが早い。酒豪なようで、水のようにお酒がおじさんのお腹に消えていく。そのペースにのまれてしまい、私も独歩くんもかなり飲まされている。ううう、お酒はもう程々にしようと思っていたのに。



「いやぁ、どんな人が引き継ぎかと思っていたけど真面目そうな人で良かった!これからもよろしく頼むよ!」
「は、はいっ!よろしくおねがいします…」


酔っ払い特有の大声で笑い、独歩君の肩を叩いている。独歩くんは笑顔で対応するもその顔は赤くお酒が結構回っていそう。でもよかった、独歩君が受け入れられて。



「君も、ありがとうね!美人に酒を注がれるとついつい飲みすぎてしまったよ」
『お上手ですね、ありがとうございました。』



お世辞に笑顔で返し、その場はお開きとなって二人して長い安堵の息を吐いた。あまりにも同時で、顔を見合わせて笑ってしまう。2人とも交通手段は電車のため駅に向かいつつぽつりぽつりと会話を繋いでいく。



『無事に終わりましたね』
「ああ、嫌われなくて本当に良かった…俺一人じゃきっと印象悪くて契約切られてたかもしれない…。ありがとう。」
『いやいや、あの様子だと私がいなくても大丈夫そうでしたよ。』



さて帰ろうか、と時計を見て驚く。もうすでに日付が変わろうとしている。駅に向かっている最中だが今から急いでもきっと終電には間に合わない。



『終電、逃しましたね…』
「あ、ああ…仕方ないしタクシーで帰るか。」



経費で落とそう。と独歩くんは切り替えていた。会社関連の会食だったので正当な請求だ。タクシー乗り場に行き先を変更する。




………二人っきり。まだ駅前まで距離はある。もしかして、これはチャンスでは…?返事はもらえないと諦めていたが、勇気を振り絞ったあの日の私にちゃんと終止符を打ってあげたい。自分勝手でごめんなさい。



『あ、の!』


意を決して声をかけると緊張が伝わったのか彼も肩を少し強ばらせた。


『先日はごめんなさい。困らせてしまいしたよね、こんな気持ち。あの、いっそ、きっぱりふられたら諦めます。……ふるほうだって、気持ちよくないのに、ごめんなさい わがまま言って。』


捲し立てるように一気に伝える。まどろっこしいのはもう無しだ。私だって、彼だって、きっとハッキリさせて終わらせてしまった方が仕事もしやすいだろう。ぐっと下を向いていた顔を上げて独歩くんの顔をみる。逃げずに、受け止めますから!



「そ、んな、」



じっと見つめる私にたじろぎ、蚊の鳴くような声から始まった返事が返ってきた。彼の目は右往左往し泳ぎまくってる。



「俺が美鷹さんをふるだなんて、ていうか、俺を好きって、ほ、ほんき、ですか…?」
『すき です。どうすれば、本気って分かってもらえるんでしょう…?……あの、本気だってことが伝われば、少しは希望をもってもいいですか?』



こんなに何度も言ってるのに、なんで信じてくれないの…!これ以上、好きの言葉以上でどうやったら本気だって伝わるのかな。酒の回った頭で考えるとろくなことにならない。そう知っていたはずなのに。




『その気がないのなら、断ってもらって結構です。』
「えっ、あの、その、俺、は。」

『私、本気なんです。その証明が、もしひつようなら、』





独歩くんの袖を引っ張る私の目線の先には、ネオンで装飾された看板のホテルが建ち並んでいた。








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