hpmi 2 麻天狼

□ペントバルビタール
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カタカタとキーボードを押しながら、ため息が漏れた。はっと静かに周りを見渡して誰にも聞かれていないことに安堵する。今の部署に異動し、主任という肩書きを背負って1ヶ月とちょっと。正直気を張り詰めていたと自負する。だってそうだろう、20代で肩書きを得てほとんどの職員にとって年下で上司となると、やっかみなく過ごせるわけがないのだから。ナメられないように、と自分なりに虚勢を張っていたのだ。

時計の針が12時をさし、昼休憩の時間になった。切りの良いところでファイルを上書き保存し、社外へ足を運んだ。

前の部署がMR関連であり、私が入職してからずっとそこで揉まれて成長していったため幸いなことに調べものは得意とする分野となった。今の部署でも活かせるようにと事前に調べて調べて調べまくったのだがやっぱり働いてみると必要な知識が足りていないと身に沁みてわかる。

最近も仕事の資料集めや情報収集でほとんど眠れないし、食事も簡単なコンビニ弁当ばかりで過ごしており、なんなら直近のここ数日はカロリーメ◯トやゼリーなど手軽にカロリーを摂取できるものしか口にしていない。

朝、出社前に寄ったコンビニのビニール袋を漁っておにぎりのビニールを外していく。あ、海苔破けた最悪。はぁーと深く息を漏らして伸びをすると、真っ青な空が目に入る。…うん、気が抜けた。海苔の破けてしまったおにぎりに、改めてかぶりつく。

なんだかんだこの仕事の合間の休憩が、ちょっとした安寧の時間だ。家ではどうしても資料とにらめっこしてしまいゆっくりできないのだ。はぁ、しんど。こればっかりは自分の性格の問題なのだが、しんどいもんはしんどい。

ふと視界の端でふらふらとした人影が動いた。視線を向けると、今タッグを組んでいる観音坂さんが背中を丸めて公園に入ってきたところだった。思わず手を大きく振ると、彼も気がついたみたいだ。

「お、おおおお疲れ様ですっ!な、何か不備がありましたでしょうか!?!!?」
『え、いや特にないんですが…観音坂さんも休憩かなと思って。良かったら一緒にどうですか?』

私に気がついた彼は肩を跳ねさせたかと思うと驚きの速さで駆け寄ってきてすみませんすみませんすみませんと謝ってきた。いや、なんか私がすみません…。

『あ…私が居たら休めないですかね?私は終わったので良かったらここ使ってください。』
「いえ!大丈夫ですっ!むしろこんな陰気臭い俺が隣に座っていいものかと…」
『はは、陰気臭くなんかないですよ。むしろ私こそ。』

どうぞ、と隣を空けるとすとんと座る観音坂さん。私は缶コーヒーのプルタブを開ける。彼が包まれた弁当箱を取り出した。開かれたお弁当は彩りが綺麗で思わず不躾に見つめてしまう。

「あ、あの…」
『あ、ごめんなさい。とても美味しそうだったので見てしまいました。』
「は、はい…いつも旨いの作ってくれるんですよね…。美鷹主任はもう召し上がったんです、よね?」
『はは、私はコンビニのお握りだったんですけど。』

おやおや、まさかの手作り弁当。彼にはそんなお相手がいるのか。愛妻弁当とかですか?と聞けば、これは同居人が…!とあたふたと弁明された。照れなくてもいいのでは。そうそのまま伝えると男です!と強く言われた。男性が、そんな美しい食べ物を作った…だと?私の女子力とは。

「よかったら、何か食べます?」
『えっ!?いやいや、そんな悪いです!』
「いえ俺より美鷹主任に食べてもらった方がおかずも喜びます」
『、ふは、なんですかそれ…!』

思いがけない冗談に吹き出してしまう。観音坂さん面白すぎる…。じゃあお言葉に甘えて…と卵焼きを1切れ頂く。

『お、美味しい…』
「、良かったです。」

口に広がる出汁の味。冷めてもふわふわな卵焼き…いやだし巻きか。に感動して感想が漏れでる。それを聞いた彼が柔らかく微笑んだ。同居人さんの料理の腕前を少し誇らしく思っているようにも見え、そして今まで一緒に働いた中で初めて見たその笑みに思わずとくりと胸が高鳴った。

人の手料理なんて久々に食べたなぁとふと思う。ちょっと自炊頑張るか。そう意気込んだ午後12時半すぎ。


3.張り詰めた日々、ほっと一息






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