hpmi 5 短編*シリーズ

□HB
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私は高校1年生、今年JKとなって、半年ちょっと経つ。世の中はクリスマスが近づき赤と緑のカラーが増えつつある。だけど私にはクリスマスの前に一大イベントがあるのだ。

それは今日ー!12月16日。私の恋のお相手の誕生日。歳はひとつ下の中学3年生。もう2年の片想いとなり、毎年こっそりとお祝いしていて私の中で恒例行事となっている。


私が中学2年生の時、彼に助けてもらったのが切欠だった。それから、顔を覚えてもらえたのかすれ違う時に挨拶を交わすようになった。学年が違い滅多に無いはずだが、よく顔を見ていた気がする。

でも、ただそれだけ。整った顔立ちでクールで大人びていた彼。周りの女子たちが黙っているはずもなく、彼は学年問わず人気があった。彼の性格上、どれもあしらって受け付けなかったみたいだけどね。



そしてバレンタインと誕生日は彼の机や下駄箱にはプレゼントの山が作られる。毎年の恒例となったそれに便乗し、私もチョコレートやプレゼントを紛れさせていた。きっと、その他大勢の内の1人。名前もしられていないだろう。


そして私は卒業し、学校は離ればなれとなり顔を会わせる機会もなくなってしまった。友達からも、そんな望みのない恋はやめなよ、高校にあがったら出会いも増えて忘れるよ、と散々言われたが4月に入学し12月現在。私の恋の花は枯れていなかった。




そしてついに来た今日。便乗してプレゼントを紛れさせることは出来なくなったが、中学3年生という若さでイケブクロディビジョンのチームメンバーとなった山田三郎。学校内だけでなく一般にも彼の名は有名となり、きっと言い寄ってくる女の人は増えているだろう。

キリリと胸は痛むが、きっと彼の家にもプレゼントが届いているはず。今までと同様に紛れさせて、私の恋心を慰めよう。




放課後、意気込んでやって来たのは萬屋山田。テナントと住居が一緒になっており、きっと彼もここにいる。ドキドキと逸る胸を落ち着かせ、扉を開けても邪魔にならないところにプレゼントが入った紙袋を置いた。

その瞬間、ガチャリとドアノブが回った。




───……


「ちょっとコンビニに行ってきます、いち兄!」
「おー、気を付けてな」
「何か要るものありますか?」
「特に大丈夫だ、気を付けてな」
「三郎、俺にはきかねぇのかよ」
「なんで二郎の分も買ってこないといけないんだよ、自分でいけ。」
「んだよ、ついでじゃねーか!」
「ついででもやだね」
「てんめぇ…!」
「おい、オメーらいい加減に…」
「に、兄ちゃんごめんよ…三郎、俺のはもういいわ」
「いち兄ごめんなさい…なんだよ、じゃあ最初から言うなよな……いってきまーす!」


ガチャリと冷たいドアノブを回して扉を開くと、そこには久しぶりに見た顔があった。






「漣先輩…?」
『え、三郎くん!?って、あ、え!?名前!?』


2人の兄に気づかれる前に扉を背中で慌てて閉める。思わず声を漏らせば、僕が先輩の名前を知っていたことに驚いている様子。


『私の名前、知ってたんだ、ね…』

へへへと笑って頬を赤く染める先輩。3月頭に卒業してから顔を会わせることがなかった先輩は、高校の制服に身を包んで髪が伸びていてなんだか大人びて見えた。

「それ、漣先輩が?」
『あ、そう。こっそり置いてこうと思ったんだけど、まさか本人が出てくると思わなくって…』


折角だし、直接渡すね。と紙袋を持ち上げた手は微かに震えていた。

『誕生日おめでとう、三郎くん。』

ありがとうございますと受けとる。初めて渡されるそれに、心が震えた。

「直接渡してくれるの、初めてですね。」
『え!!』
「去年も一昨年も、くれてたの気づいてました」
『そーなの!?』


律儀に差出人をチェックするとは思ってなかったのだろう、驚きの色を浮かべてはその頬をどんどん赤く染めていく先輩に意地悪したくなる。自然と口角が上がるのが分かった。


「漣先輩、僕今からコンビニ行くんですけど付き合ってください」
『え、あ、うん。いいよ。』


戸惑いながらも僕の少し後ろをついてくる漣先輩の腕をつかみ隣に引き寄せる。

『さ、ささささささぶっ三郎くん!?』
「先輩が卒業する前、僕が偶然近くを通りすぎてたと思いますか?」
『え、うん。』


けろりと答える彼女に、はぁ、と溜め息が漏れた。呆れたが、不安そうに僕を見つめる瞳に絆されてしまう。


「そんなワケないでしょ。少しでも、漣先輩が見れるとこを時間割りから計算してたんです。」
『えっ、と…それって、』


期待していいの?と溢す漣先輩に微笑み返す。


「先輩が卒業して、きっと僕を好きだったことなんて忘れてしまうと思ってました。」
「でも、学校が違っても、今日来てくれたってことは、まだ僕のこと想ってくれてるってことで間違いないよね。」



ポロポロと涙を溢す先輩。言わせる僕は、きっとズルい。


「凪先輩、僕、今日誕生日なんです」
『っう、す、好きっ…好きです…!』
「っ、僕も好きです。ずっと、好きでした。」




ずっと欲しかったもの。貰ったもので一番嬉しいかな。まだグズグズ鼻をならしている凪先輩の涙を拭い、ちゅ、と触れるだけのキスをする。一瞬フリーズしたかと思えばタコみたいに真っ赤になってまた涙を溢れされる先輩に、声を漏らして笑ってしまった。


『う、ううぅ…三郎くん笑いすぎだよぅぅぅ…』
「凪先輩は泣きすぎ。」


ほら、コンビニいくよ、と手を繋いで暗くなりつつ道を歩いた。




先輩の連絡先をきいて、冬休みに会う約束もした。受験の心配もされたけど、僕を誰だと思ってるのか聞いたら素直に遊びにいく約束を受け入れてくれた。
そして帰ると、誕生日を祝う準備をしてくれていた兄たち。控えめに言って、最高の誕生日だ。





日付が変わるほんの少し前。ベッドに入って携帯のロックを外してメッセージアプリを開く。
ほとんど諦めていた恋心。ドキドキと、わくわくと、違う学校に通っている不安。昨日にはなかった感情が僕の中に渦巻いている。


これまでお互いに勇気がなくて過ぎ去った時間。
これからは無駄にしないように。


おやすみ、とメッセージを送った。






2020
Happy Birthday!Saburo!



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