hpmi 5 短編*シリーズ

□HB
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『一郎、誕生日なんかしてほしいことある?』
「なにその響き、エロい」
『却下』
「まだなんも頼んでねぇよ!?」


その一言から始まった。オタクってものはやっぱり萌えと癒しを求めるものである。それは分かりみが過ぎる。自分に奉仕し尽くしてくれる人には癒される法則がありこの世の中、メイド喫茶や執事喫茶が普及しているのだろう。


とそんなこんなで。
「メイドさんになってくれ。」
真顔で何言ってるのかと思う。キャラコスではないことに安心する。私が一郎の推しをするなんて解釈違いもそうだし、キャラではなく"私"として見てくれるから。

『私(オタク)にメイドやらせるのって、超つまんないと思うんだけど…』
「なんでだよ?」
『…なんていうか、こう、メイド服を着せられてる彼女が恥ずかしがってるのにきゅんとするじゃん?私、コスプレとか耐性あるしあんまり求める萌えにならない気しかしない。』
「一理ある。けどな、俺が好きな凪がかわいい服を着るということに意義がある!」


俺が好きな、というフレーズに思わずきゅんとして顔に熱が集まる。く、くそぅそんな力説されたら逃げられない。そう、上手く言って回避しようとした節はあるがさらに一郎は上手だった。そうして私は渋々頷き、山田家でさすがに二郎と三郎の前でメイド服は着られないため(どんな冷ややかな目で見られるか想像しただけでゾクゾ…HP削られる)、家に来ることになった。夜は、山田家に行って弟たち含めて誕生日パーティーする予定。さすがに丸一日、特別な日に一郎を独り占めにはしない。わちゃわちゃ幸せそうな三兄弟がみたい((本音


家につき、玄関で少し待っていてもらう。部屋で渡されたメイド服の袖に腕を通す。(いつから準備してたの、一郎?)

着てみたはいいものの、ちょっと、スカートの丈が短い…!私はロングスカート派なんだってば。その下の太ももにナイフホルダーとかあったらマジで。主人守るために護衛役もできるメイドさんで戦ってるときにスカートがはためいて実はスリットあるのが分かってエロエロの…はっ!私の理想のメイド語っている場合じゃなかった。

普通に出迎えるよりか、と考えてメッセージアプリで着替え終わったから入ってきて、と送る。そして玄関の扉を前に立てば、ドアノブが下がった。



『おかえりなさいませ、ご主人様』

私の出せるとびきりの笑顔とお辞儀で主人を迎え入れた。一郎の後ろでパタンとドアが閉まる音がする。お辞儀のまま待っているが一郎は言葉を発しない。え、なに無反応?恥ずかしいんですけど!?


ゆっくり身体を起き上がらせば、天を仰ぐ一郎。

『や、やっぱり変?』

そりゃそうだ、20代半ばのいい年した女がこのカッコはない。着てって言ったのはそっちだぞ、後悔するんじゃない…!


「か、かわいい…」


絞り出されたように漏れでた声。かぁっと顔に熱が集まる。似合ってる、と少し一郎も頬を赤らめてる。なんだこの絵面。


『…ねぇ、もう脱いでいい?』
「脱…!いや、まだだめだ勿体ねぇ!」


ちょっと、今変なこと考えたでしょ。

『きゅ、急に恥ずかしくなってきた!』
「なんでだよ、写メ撮らして」
『却下』
「却下早ぇ」


とりあえず上がって、と促してお茶いれようか、と聞く。すると一郎は私のほほに手を伸ばして触れてくる。ふに、と親指で私の唇に触れるとむにむにと押してくる。

「ご主人様に、口の聞き方がなってねぇんじゃねぇか?」


あ、メイド服着てくれじゃなくてメイドさんになってくれってこと?玄関でのやり取りを続けるように促すそれと、触れる一郎の指にこくり、と唾を飲んだ。


『…申し訳ありません、ご主人様。』


ふい、と視線をそらす。一郎のイケメンさに耐性が持たない。お茶をお持ちしますので、掛けてお待ち下さい、と呟いた。一郎が機嫌良さそうにソファーに腰を下ろしたのを見届け、お茶を淹れる。


なんて羞恥プレイだ、これは。ぱたぱたと顔を扇いで気休め程度に熱を逃した。


『お待たせいたしました。』
「なぁ、あれやってくれよ。」
『?』


美味しくなる魔法。

『ばっ…!?ただのお茶ですけど!?ハートが書かれたオムライスとかないんだけど…』
「雰囲気、雰囲気」


ワクワクと瞳を煌めかせる一郎にはぁ、とため息をついて自分に言い聞かせるように諦めをつかせる。羞恥心なんてとうに捨てた…!カッ!と無心になった。これぞ賢者タイムと同等の虚無!


手でハートを作り、さぁご主人様もご一緒に♪とお決まりのワードを吐き捨てる。あああああ恥ずかしい!言い終わって即座に両手で顔を隠した。死ぬ。耐えられないこの羞恥心。よくメイド喫茶のメイドさんたちできるなぁ、尊敬!!!!


「凪」


名前を呼ばれ、少しマシになった熱い顔を一郎に向ける。

「恥ずかしがって、可愛いな。」

ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべる一郎。私が着る前に言った言葉に対してだとすぐにわかる。ばーか、とそっぽ向けばいじけんなよ、と腰に手を回され一郎の膝の上に座らされた。


『ち、近い…!』
「凪が可愛いのが悪い…」
『か、可愛いってやめて、心臓に悪い!』


んだ、それ。と笑う一郎。

「なぁ、こっち向いて座って」
『ひっ…!?ムリムリムリ…!』


心臓爆発する…!

「しねぇよ。ほら、」

私の心を読まないで!



背中を押されて、一度立ち上がる。くるり、と一郎と向き合い、下から見上げられる構図に目眩がした。いつどこでもどの方向からでもイケメンですね!?パンクしかかってる頭と、フリーズする身体。太ももに、一郎の熱い手のひらが触れる。ぴくり、と肩が跳ねた。ザラ、と皮膚の硬い手のひらにゾクリと身体を震わせる。一郎の瞳は、私を捉えたまま。


その瞳は私を従わせる。ゆっくりと一郎を跨いで腰を下ろす。


「超イイ眺め。」
『う、ほんと恥ずかしい。』


顔を見られたくなくて、一郎の首に腕を回してぎゅうっと抱きつく。鼻腔には一郎の匂いが充満する。ううむ、これは私のご褒美では?と思った矢先、一郎も私の髪に顔をうずめる。


「俺のために、恥ずかしいコトしてくれてんの、最高。」

こ、声がいい…。耳元で囁かれてへにゃりと力が抜ける。耳を孕ませるつもりか?こんにゃろー。


『…こんなんで、喜んでもらえたのなら、』


不服そうな顔をそのままに、一郎からすこし離れる。その表情をみた一郎はまた笑った。その嬉しそうな顔に、きゅう、と胸が高鳴ったのが分かる。




『誕生日、おめでと。一郎。』


そう言って、唇を重ねた。一瞬のことで、離れてその顔を伺えば豆鉄砲をくらったようにポカンとした表情を浮かべる一郎に、今度は私が笑った。


「今日は大胆だな。」
『…誕生日だから、とくべつ。』
「へへっやっぱサイコー。」

今度は、一郎から私へ口づけが返された。





2019
Happybirthday! Ichiro!








「あの〜、凪さん。この体勢そろそろ我慢できねぇ」
『……』
私は無言で立ち上がり、脱衣場へ着替えに走った。
さすがにこの後弟たちと合流するので、一郎も我慢してくれたのだろう。ごめん、一郎。





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