hpmi 5 短編*シリーズ

□HB
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明日は二郎くんの誕生日。付き合って初めて迎えるその日に、私はドキドキソワソワ。プレゼントは何にしようかな。今日の部活終わりに買い物に行く予定を立てた。



部活が終わる頃にはすっかり暗くなってしまって昼より気温が下がった。2月になり、寒さもピークを越えた筈だがまだ風は冷たい。マフラーを巻いて耳当てをしているが首が寒い気がして肩をすくめた。ウィンドウショッピングをしながらプレゼントを考えてみる。服の好みが合わなかったら外に着ていきづらいだろうし部屋着用に面白Tシャツも二郎くんなら喜びそう。靴とか?いやいや流石に足のサイズまでは分かんないや。そういや今ハマってるアニメがあったな。そのグッズもあり…?…やっぱやめよう。既に持っている可能性がある。


うーん、と頭を悩ませながら探し歩いて結局帽子と部活で使えるようにフェイスタオルに決定した。雑貨屋にも寄って、ラッピング材も購入。 喜んでくれるといいなぁ。勝手ににやける口元をマフラーに顔を埋めて隠して帰路に着いた。









学校に登校して教室で1限目の準備をしていると予鈴ギリギリに二郎くんが登校してきた。教室に入るなり、おたおめ!と騒ぐ男友達に囲まれる二郎くん。人気者だなぁ、とぼんやり眺めていると、こちらに向かってきた。



『誕生日おめでとう、二郎くん。』
「おう、さんきゅー、凪!」
「なぁ二郎、今日の放課後パーティーしようぜ」
「おいバカ、気ぃ使えよ!」


まだ絡んでくるクラスメート。騒がしいけど、賑やかな中心にはよく二郎くんがいる。なんだか眩しいな。いつものことなんだけども。



「へへ、毎年この日は兄ちゃんが好物のカレーと、パエリア作ってくれるんだ!」



お兄さんの話をする二郎くんはいつもタレ目をさらに垂らして柔らかくなる。ああ、そうか。そうだよね、家族と過ごすよね…。




「おい、二郎マジか。」
「?」
『好きなものしかない食卓って、テンション上がるよね。』
「そーなんだよ!」
「漣……」



驚くクラスメートにはてなマークを頭に浮かべる彼にもはや笑えた。笑顔でそう伝えると、太陽みたいに二郎も笑ってお兄さんのご飯が美味いことやラップが強くてカッコいいことなど安定の兄弟ノロケが始まる。と言っても、すぐ予鈴が鳴ってお開きになったんだけど。





勝手に傷ついてバカみたい。カチカチとシャーペンのおしりをノックしてのびていく芯をひたすら眺める。二郎くんが家族を大事にしていることは知っていたし、それも彼の良いところで好ましかった。だから二郎くんが悪いわけじゃない。悪かったのは私。っていうか、簡単な話 自己嫌悪だ。付き合ってるから当たり前にその時間をもらうだなんて、なんておこがましかったんだろ…。


折角の二郎くんの誕生日なのに気分が沈んじゃった。うん、別に当日じゃなくても、週末にお祝いすればいいよね。お祝いの言葉は伝えることはもう出来たしね。平日だと部活が終わってからになるため遅くなってしまうしそれがいい。と気持ちを切り替え授業の板書に集中した。




休み時間の度に女の子が二郎くんを訪ねては綺麗にラッピングされたプレゼントを渡しに来る。無下にできない二郎くんは全てを受け取っていた。好意を寄せている女子もいるし、純粋にバスターブロスのミッドブローファンもいる。彼の人気は仕方ないし、付き合う前から分かってたことだ。…分かってたんだけど、秘かに嫉妬するぐらいは許してほしい。
私のプレゼントはまだ鞄の中。渡せないまま放課後になり部活動に向かう。



付き合う時、お互いに初彼・初彼女であること。正直、恋人らしいことがどんなものか想像がお互いに乏しかった。登下校も部活や生活(二郎くんは遅刻が多い)ので別だし、二郎くんは部活と家業の手伝いもしていたりラップの特訓のためにサイファーしに行ったりとでゆっくり二人きりになれたことは少ない。一応、二人っきりの時は手を繋いだりしているけれど。今までの恋人期間を振り返り、小学生か、とつっこみたくなった。



部活動が終わり、携帯を開いて二郎くんに週末一緒に遅れてだけどお祝いできないかとお誘いのメッセージを送る。うん、お誘いは勢い。勢いで送らないとまた悶々悩んじゃうから。送ってすぐだったが既読がつき、電話が震える。え、えええ、二郎くん。なんだろう。



〈もしもし?今帰りか?〉
『部活お疲れ様〜。うん、今下駄箱出たところだよ』
〈あ〜、あのさ。俺も丁度帰るところなんだけど、一緒に帰らねぇ?〉
『ほんとっ?嬉しいなぁ〜。じゃあ校門で待ってるね。』
〈おう、すぐ行く。〉


通話が切れた携帯をぎゅっと胸の前で握り締める。久しぶりに一緒に帰れるなぁ。それも、二郎くんの誕生日である特別な日に。口元がゆるゆるになるのが分かった。



「わりぃ!待った?」
『ううん、全然。走ってきてくれたんだ?』
「ンなの、待たせてるんだし当たり前だろ」


ケロリと言ってのける彼の人たらしを垣間見た。そう言うところだぞ、山田二郎っ!きゅんきゅんしたわ。2人で肩を並べて帰り道を歩く。お互いの家の方向が別れる道に差し掛かり、それじゃあと手を挙げるとぎゅっと手を握られた。え、て、てててて手が!!!握られていますよ!!!!みなさん!!!!って、誰に言ってるんだ。



「送ってく。」
『え?お兄さん達、二郎くん待ってるんじゃない?』
「……それなんだけどよ。」


私の手を握る反対の手で頭を掻きながらバツの悪そうな表情を浮かべる二郎くん。はて、と首を傾げると繋いだ手を引かれて私の家の方に歩きだした。



「部活のヤツらに、カノジョ出来たのに家族と過ごすのかよ、って言われてよ…俺、いつも通り家族で過ごすことしか考えてなくて、凪に悪かったなって。」
『え。そんなのいいのに。私こそ、前もって予定聞いてなかったしね〜。』
「……俺、まだ兄ちゃんたちにカノジョ出来たって言ってなくて」


顔を真っ赤に染める二郎くんに笑った。男兄弟だけじゃ言いにくいよね。


「よかったら、今日家来るか…?」
『……え!?!ききききゅうすぎない!?』
「そ、そうだよな…」


びっくぶらざーとりとるぶらざー勢揃いに混ざる勇気はまだない。とりあえず二郎くんともうちょっと仲良くなりたいかなぁ。


『なので、ふたりきりで、週末一緒にお祝いできないかな?』


二人きりで、と少し意地悪に強調してみれば思惑通りにボンッと更に首まで赤く染めた二郎くん。ああ、そろそろ家に着く。



「明日の土曜なら、部活が午前中で終わる、から」
『うん。連絡待ってるね。あ、そうだ…コレ。』
「っ!さんきゅー!」
『、他のと被ってるかもしれないけど。』



ちらり、と彼が引っ提げている大きな紙袋を見やる。今日もらったであろうプレゼントが詰め込まれている。帽子とタオルだなんて、無難すぎたかなぁ。とぼんやり思っていると、繋いでいた手が離れて頭を撫でられた。



「お前からのプレゼントが、1番嬉しいっつーの!」


照れながらも白い歯を見せて笑う彼に見惚れて、私も顔に熱が集まるのが分かる。きゅううううう、とときめきが際限なく私の心臓を締め付けた。ぐっと二郎くんの腕をつかんで引っ張ると、姿勢を崩すしたその隙に、私も頑張って背伸びをする。



ちゅ、とその頬に唇を押し付けた。


「っな、凪、おま、家の前で!」
『へへ、誕生日おめでとう、二郎くん。』




明日の午前中にケーキを作ろう。あしたは早起きだ。そう決意して今日は楽しんでねと手を振ると、二郎くんも振り返してくれた。明日が楽しみだ。







2021

Happy Birthday!Jiro!





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