hpmi 5 短編*シリーズ

□HB
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携帯画面を眺めていると、時間を示す数字が0:00と並んだ。あー、日付が変わった。とソファーの上に寝そべっていた私は身体を起こす。
ガリガリとスケッチブックにペンを走らせる彼の背中に近づいた。もうすぐファッションショーに出す服の締め切りがもうすぐらしい。まだまだ日程は先なのに、服が完成するまでを逆算すると足りないぐらいらしい。「らしい」が並ぶのは仕方がない。知識がないからね。


『おつかれ〜』
「ん〜、だいぶん描けたかなっ☆」
『……この大量のスケッチの中、使うのは何着なわけ?』
「えっとね〜、5着ぐらいかなぁ?」
『ごっ……』


ざっとスケッチは100枚ぐらいある。まじか。ていうか凪、まだ居たんだぁ。とボケてくる乱数を殴りたい。彼は自由気ままで、構いたいときは構うし、構いたくないときは空気として扱ってくる。今日は後者だったみたいだ。かといって私も好き勝手に過ごしていつも自分のタイミングで帰っているから、どっちもどっちな自由人だ。


『誕生日、おめでとう。』
「えー!ほんとだっ!日付変わってるぅ〜!ありがと、凪〜。」


スマホの画面をみて大袈裟に騒ぐ乱数。そのスマホには友人、もといキレイでカワイイおねーさんたちからのメッセージが沢山届いているのだろう。乱数は飴の袋を剥がして口に咥え画面を叩いている。私が目の前にいるのに、とムクムク私の中の嫌な気持ちが膨らんでいく。


『、乱数』
「ん〜?」
『乱数』
「なぁに〜?」

視線はまだ、スマホの液晶に向いたまま。きっと眠って朝になれば沢山の贈り物が配達員によって運ばれてくるし、バラバラに見えるお仲間も多分この事務所に集まってくる。相変わらずの騒がしい一日になることだろう。小さく個包装されたキューブ状のチョコを自分の口に放り込んだ。

『乱数〜』
「もぉ〜!なにってば…」

回転する椅子ごと私の方に向いた乱数に、キスをする。乱数は一瞬驚きはしたものの口角をあげて甘んじてそれを受け入れる。私の体温と唾液で溶けたチョコレートが、乱数の舌に絡むと乱数も私の口腔内を貪った。

「、甘…」
『はっぴーばれんたいん』
「凪、それ分かってる〜?」


「…誘ってるってことか?」
『………だったら?』

明るい声色から一転、見た目から想像がつかない低い声で乱数が耳元で囁く。挑発するように肩にすり寄れば、今度は乱数に後頭部を押さえられ唇に噛みつかれた。心の中でやっとこっち見た。と笑った私も大概だ。深くなるにつれ上がる息に欲が擽られ、お互いに体温を分け合った。





結局事務所で共に朝を迎えた。朝食を適当にすましているとあ、と誕生日プレゼントとバレンタインの贈り物の存在を思い出す。

『はいこれ、本命。』
「昨日貰ったのにいいの〜??」
『あれは別。』
「って、これ塩味のポテトじゃーん!バレンタインなのに〜!」
『…甘いものは一杯届くでしょ。たまにはしょっぱいの、欲しくならない?』
「アハッ♡!さっすが凪!」


プレゼントは物だが、バレンタインは食べ物だ。既製品の某チップスだけど。沢山の甘いものに囲まれる彼に、飽きさせないように。


「でもでもぉ〜!」

きゅるんっと文字が実体化して見える。
こんな可愛い男がいてたまるか。
私、女やめよかな。

「また凪が欲しくなっちゃったなぁ…」

また低い彼の声が鼓膜を震わせる。ほんの7時間前にぐずぐずに溶かされたばかりの体がきゅんとうずく。前言撤回。彼ほど男らしいものはない。可愛げなんかなかった。


そしてまた彼に与えられる甘い時間に酔いしれるのだった。



2021

HappyBirthday! Ramuda!




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