hpmi 3 MTC

□マトリとポリス
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閑静な住宅街の一角で、3人が物影に隠れ 何かを待ち伏せしている。その人物らは公務員たちだ。もちろん、私も含めて。
目的の人物が自宅に帰って来たのを確認する。ワイヤレスイヤホンで、合図を送る。すると待機していた7名が準備に入る。


『失礼。田中はじめさんでお間違いないですか』
「はあ?なんだテメェ…」


ガンつけてくる男はスウェットに無精髭を生やして頬が痩けている。ガンつける彼の腕をつかみ、瞬時に袖を捲った。肘の内側に複数の注射痕があるのを確認する。


『麻薬取締官です。尿検査の協力をお願いします』
「は、ぁ!?何でだよ!?俺はしねーぞ、そんなモン!!!」


麻取だと明かせば、明らかに動揺をみせる男性にクロだと確信に近づいていく。抵抗をみせるが、今回来たのは色々裏を取っている。この人物の家で複数人が集まり、薬物パーティーを開いている情報を得ている。それも今日だ。

残念ながら、私たちは警察ではない。だからこそこんな抵抗は意味をなさない。だってこれは強制捜査なんだもの。

他のメンバーと合流し、男の拘束をし例の一室に向かう。尿検査もしなければならないし、この集いに参加しているのはあと3名ほど居るはずだ。ドアを開けた先に、異様に淀んだ空気が蔓延しているのを感じる。今この時も薬物を摂取し火を燻らせて居るのだろう。変に甘ったるい香りもする。ビンゴ。きっと大麻だ。


暴れる薬物中毒者を拘束する。集まってからそんなに時間が経っていないはずなのに、1人はかなり錯乱している。常用者かもしれない。全員の尿検査を待ち、戻ってきた人物の目の前で荷物検査、家宅捜査を始めた。すると出るわでるわ 透明の結晶に白い粉。緑と茶色の葉。ポンプや包み紙、パケも見つかった。


連行するために容疑者と証拠品を車に詰め込んでいるとパトカーのサイレンが近づいてきた。そこから降りてきたのはお察しの通り警官だ。それも、私の天敵の彼ら組対だ。


「また貴女ですか。」
『遅かったですね。』


すらりと長い手足。男でこのスタイルの良さは女の敵だ。ぴしりと揃った七三とインテリジェンスを際立たせる縁の細いメガネをかけた彼。この辺じゃもっぱら有名な悪徳警官、入間銃兎だ。


「…あなたたちと違って正規捜査しかできないもので」
『あなたがそれを言います?』


どの口が、と思わず漏らす。
ああ、胸糞わる。自分達の情報不足をよそのせいにしやがって。こっちも死ぬ気で情報さがしてるのよ。


「こんな下っぱを捕まえてどうするんです?」
『ご心配なく。ここのバイヤーも押さえていますので。』
「おやおや、それは流石ですねぇ。」


そんな嫌味にそっぽを向いて私も車に乗り込む。私は今から取り調べで忙しいのよ。車内は口汚く叫ぶ男の声がBGMと化している。うるさいなぁ。
分室までの距離を流れていく窓の外の景色を眺めていた。







麻薬取締官。6年間薬科大学での勉強を終え、特別司法警察職員として私、我妻 星菜は働いている。つまり、カントウ厚生局のマトリだ。大規模港湾施設として分室を置かれているヨコハマで薬物案件を担当している。


薬物を撲滅してやる、なんて高い志なんて私は持っていない。
国によっては合法麻薬なんてある。
ましてやカフェインだってアルコールだってニコチンだって依存性のあるものなのに。

国によって感じ方や考え方はそれぞれだ。
それでも、薬物によってもたらされるものは想像以上に酷い。本人も、周りの人間も。薬物は、悲劇を沢山生んでいるものであり悪いもの。



だから排除する。
そんな単純なことだけなのだ。



何にせよ、4人も吊し上げることができた。他の班が押さえたバイヤーも無事逮捕できたと連絡がきた。同時に捕まえないとバイヤーが逃げる可能性があるからね…。そしてそのバイヤーからさらにブローカー、密輸者を炙り出さなければならない。

しばらくはゲロ(自白)るまで取り調べ、それからまた調査に入っていく。取り調べさえ上手くいけば一旦祝杯をあげよう。自分へのご褒美と、続く捜査への激励だ。






そう決意した2週間後、晴れてそのご褒美を享受できている。最高!友人を誘い、ざわざわと騒がしい居酒屋に来て生ビールが注がれたジョッキを片手にあーだこーだと世間話に花を咲かせる。


「てかさー、彼氏できたんだよね」
『え?ホントに言ってる?』
「マジマジ。」
『うっそ、おめでとうー!!』
「ありがと〜」


再度乾杯とグラスを持ち上げると小気味良く高い音を奏でる。周りはみんな結婚ラッシュである。私たちはその波に乗り遅れた組だった。私はそんな話てんでないんだけど。あー、このままゴールインに彼女も向かっていくのだろう。


「星菜も仕事ばっかじゃなくて出会いを求めに行くべきよ〜!」
『って言ってもなぁ…』
「公務員なんだから、職場での出会いとか安定した相手だしいいんじゃない?」


この仕事は機密事項を取り扱うため、友人にも家族にも普通の公務員で事務員として厚生局で働いていると伝えている。(説明が面倒なのもあるっていうのは置いといて。)薬学部出で公務員事務って…とでも思われているかもしれない。正直麻取は自分の時間は少ない。情報が得られそうな状況であればプライベートでも次の出勤時に報告できる位には情報を聞き出すしオトリ捜査での時間帯はもちろん深夜まで及ぶものもある。


『ううーん…めんどくさい。』
「枯れてる!早いよ星菜!まだ28だよ!」
『もうアラサーなの?こわ…』
「ほんと、時間は無情よね」
『なにそれ、何キャラよ』
「さぁ?」


それからもとりとめのない話ばかりして解散となった。適量より少し多めのアルコールに気分は上々。
さて、明日からまた頑張りますか。




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