hpmi 4 FP

□野良猫の隠れ家
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ピンポーン──・・
日付が変わるまであと数時間といったときにインターホンが鳴る。はぁ、と溜め息をこぼしながら扉を開けると、予想通り白い歯を見せて笑って片手を挙げる男がいた。


「腹減った!さみい!飯食わせて〜」


開口一番にそれか。
はいはい。と彼を招き入れ、微かに鼻につく汗とタバコの臭いに顔をしかめた。


『ご飯テキトーにするから先にシャワー行ってきて。お湯だしっぱなしにしないでよ。』
「へいへい、毎回言われてるからわかってるっつーの」
『そうやって毎回出しっぱなしにしてるの誰?』
「だってさみーもん」


ジロリと睨み付ければそう返事して脱衣所に逃げ込む彼。ああ、これは今回も出しっぱなしだ。水道代払え。


シャワーを浴びている間に、有り合わせでつくった焼き飯と常備菜の高菜の油炒めを出しておく。
シャワーを浴び終わって、家に来た時用に置いてあるスウェット姿で出てきた彼はがっついて平らげた。3日食べてなかったそうで。

ゴロリとソファーに寝転んでいると、ギシ、と音をたてて私の上に乗っかってくる。


『何、重いんだけど…』
「お礼に、疲れてる花チャンにマッサージでもってな!」
『ちょ…』



ぐっぐっと背中を指圧され、気持ちよくて力が抜ける。まぁ甘んじて申し入れを受け入れようじゃないか。
……って、

『どこ触ってんの。』


際どいところを撫でてくる手を掴んで制止するも彼は悪びれる様子はない。


「もっと気持ちいいことしてやろうかなって。」
『今日はいい。』
「ちぇー。」


そんな軽口を交わし、男は勝手にうちの冷蔵庫の中を物色し始める。そして缶ビールのプルタブに指をかけた。私は明日仕事だから寝るからな。冷蔵庫の中空っぽにしないでよね。。。そう伝えるも分かったか分かってないのか、へいへいと返事が返って来た。


時おり来るチャラ男こと有栖川 帝統。真面目に勉強していい学校に入って安定した職を目指してきた私とは正反対の男。そんな彼とであったのは去年の春のこと。まだ1年も経っていない。



─────・・・


4月の異動してきた人たちの歓迎会がその日はあった。仕事終わりに開催されるそれは割りと遅い時間にお開きとなった。
春の日差しがあたたかくなってきたと言ってもまだ肌寒い。よもや夜はまだ冬の名残を思わせる気温。しかし酒を飲んだ自分にとっては涼しく心地よかった。酔いざましに家までではなく途中でタクシーから降りて少し歩くことにした。

その帰り道にある公園を通りかかったとき、にゃあと猫の鳴き声が。キョロキョロと見渡すが公園のライトは少なくて暗かった。にゃーにゃーと鳴き続ける声を頼りに草影を覗くと、そこには猫に囲まれてる男。見間違えかと思い目を擦るもやっぱりそこには人間の男がいた。


動揺して後退りすると、草が揺れてガサガサと音が鳴った。するとパチリと男が目を開けてこちらを見た。数秒、男と見つめ合う。

先に動いたのは彼だった。急に立ち上がる男に逃げようと踵を返すも腕を捕まれてしまい失敗に終わった。男が口を開く。終わった、と思った。


「1日泊めてくれ!」

そう必死の形相で訴えてきた彼。
逃げるのが失敗した、と動揺して混乱していたのと、少なからず私は酔ってたんだと思う。
何を思ってか、連れて返ってしまったのだ。


その日はほんとに風呂とご飯を与えて朝には我に返り追い出した。それがなぜか、今でも時々顔を見せるようになってしまったのだ。



それが彼と私の出会いだった。




野良猫との出会い





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