hpmi 4 FP

□野良猫の隠れ家
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2回目彼がやってきたのは、春から夏に移り変わり暖かい季節になってきた頃。インターホンが鳴り扉を開けば数ヶ月ぶりにみた男が頭を下げ手を合わせていた。

「たのむっ!金かしてくれーー!!!」
『…さようなら。』
「ちょ、まってくれ!」


その言葉に私はドアを閉めようとしたが、扉を掴まれ憚れる。あまりにもしつこければ、このまま指をつめてしまおうが閉めてやるからな。


『お金は絶対に貸さない。』
「…わかった!金はいい!今晩泊めてくれ!」
『…………はぁ…』


私のその一言でなにか察したのかそれ以上の金の無心はしてこなかった。現物支給ならまぁ、とため息をついて閉めかけたドアを開いてなんとなく招き入れた。

サンキュー!と軽く礼を言いながら上がる彼は本当に感謝しているのやら。まだ2回目というのに無遠慮にリビングのテレビの前を陣取っている


「泊めるのはいいのに金は貸してくんねーのな。」
『用心深いの。友達でも貸さないよ。私が稼いだんだから私が使う。』


淹れてやったお茶をテーブルに置けば見上げてそう聞かれる。お金を貸すのは返ってこなくて良いときだけだ。


「なんだよ、騙されでもしたか?」
『別に。元父がギャンブラーで借金まみれでお金の大切さを知ってるだけ。』
「なんだよ、おめーの父ちゃん俺と同志じゃねぇか!」


勝負事はギャンブルにつきるよな〜なんて鼻唄を歌うかのようにポップに言い放つ彼に冷たくかえす。


『あっそ。』
「お前も、いつか賭けに出てヒリつく感覚に焦がれるかもしれねぇ血筋だな。」
『は?馬鹿いわないで。私はあの人と関係ないから。』
「つめてぇの。」


それからは特にお金の話や過去の話はせず、最近はどこに野良猫が多いだとか立呑屋で隣のおじさんから聞いた面白かった話だとか、内容のすっからかんな話をただして眠りにつく。
そしてまた、朝になったら彼を追い出すのだった。





───・・・


夏も終わりに近づいてきているが、まだまだ少し歩くと汗が吹き出る暑さが猛威を振るっている。
私は歓迎会をした人、4月に異動してきた人といい雰囲気に。お互いに公務員で安定している。やさしくて気さくな方だ。まだお付き合いという形にはなっていないが数回デートだってした。手も繋いだ。


うん、我ながら順調に関係を深めることができていると思う。彼と、いい関係が築けそう。
ピロンとメッセージアプリの通知が鳴る。明日は週末ということで、よき関係を築いている岡田さんから食事の誘いの内容だった。この辺じゃ珍しい少しお高めのレストラン。次のステップに上がるって、期待しても良いのかな。

楽しみにしてます、と可愛らしいスタンプと共に文字を打ち込んだ。

そして翌日。
退勤後の食事に間に合うよう、定時に上がろうと必死に大量の書類を捌く。なんとか午後の仕事量が軽くなりそうだ。
お昼休みに入り、持参したお弁当を平らげる。自炊は節約のキホンだ。午後の仕事もあともう少し。
緩む頬を引き締めて自分のデスクに戻ると、部署内が少しざわついてる。



なんだろう、と覗くと岡田さんとその隣には美人というより可愛らしい女性が立っていた。
それに、その女性は小さな子どもを抱いていた。


「岡田さん、こんな可愛い奥さんがいたんですねー!」
「赤ちゃん可愛い〜!寝てる〜!」
「何ヵ月ですか?」
「岡田くん、家族のために頑張らないとな!」

聞こえてくるワードで、察することはできた。ただ私の脳は理解を拒む。え、何、一体どういうことなの。


ちらり、と岡田さんの視線がこちらを向いた。その途端にきょろきょろと黒目があちこちに動き回って動揺を示す。
彼の視線がこちらを向いていることに気づいたのか、女性も私のほうに顔を向けてにこりと笑った。


「いつも夫がお世話になってます。」
『……いえ。』


彼の左手を盗み見れば、いつもはつけていなかったじゃないか。シルバーの指輪が薬指にはめられていた。


理解が進むにつれ、一気に目の前がモノクロに染められていく。それから岡田さんと彼の奥さんのやりとりはどこか画面の向こう側で流れているかのように感じた。






安定したものとは




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