hpmi 4 FP

□野良猫の隠れ家
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一度身体の関係を持ってしまえばそれを皮切りに帝統と私はたまに体を重ねるようになった。私がその気じゃなければ断るけれど、割りとねちっこくその気にさせてきて結局受け入れることになる。
今だって、断って先にベッドに潜り込んでいたにも関わらず後を追って布団に入り込み触れてくる。
明日も仕事だって言ってるじゃん。


『あッ、』
「ん。イイ声がでてきたじゃねぇか」


甘い声を漏らせば、ニヤリと笑みを深める帝統。
彼はもう私のイイところを知っている。
また今夜も、普段はダイスを転がしている彼の器用な指先に翻弄されて流されてしまうのだ。


出会って一年足らず。今では彼は有名人となった。きっと私でなくとも性欲処理として相手してくれる女性も、泊めてくれる人も、お金を貸してくれる人もいるだろう。たまにここに来た時に石鹸の匂いがするのがその証拠だ。けれど彼は今も変わらずここに通っている。少なからず私のところが気に入ってくれているのだろう。少しぐらい自惚れたっていいでしょう?


私にとって、帝統は自分を取り繕わずに過ごせる数少ない相手となっていた。まぁ関わっていくにつれ取り繕っても私に得はないと理解したからだけど。
最初は関わってしまって後悔した。まさか人、ましては男を拾ってくるなんてお酒を控えようとも思った出来事だったが今では一緒に飲んだりもする。私の冷蔵庫の中の酒だけどね。
現実は小説より奇なりとはまぁよく言ったものだ。


いつか彼は言った。いつか私も焦がれるように賭けたいものが出てくるのではと。私の人生を賭けて、彼と一緒に居たいと思えている現在に思わず自嘲する。


でも、安定した職についた気さくで優しい人と添い遂げる夢をまだ見ている私は動けない。


チリチリと胸の奥に燻る熱に気づかないフリ。
飼えないけれど世話をして折角懐いた野良猫が去るのが寂しいだけだ。これは恋心なんかじゃない。そう言い聞かせて。


「考え事してんじゃねーよ」


色々耐えていたが、それが気にくわなかったのか耳を食まれ意識が帝統に向く。次にはねっとりと耳の縁からうなじをなぞるように舐められ、彼の歯の隙間から漏れる熱い息が私の肌を撫でた。


『やぁっ…だいす…ッ!』
「なぁ、花」


彼が私の名前を呼ぶ度に抑え込んでいる熱が弾けそうになる。


「イイコトしようぜ?」


蜜事を始める場面にそぐわない、無邪気な声で私を誘う。私は肯定の意味を込めて帝統の首に腕を回した。すると戯れの軽いキスが降ってきたのでそれに答える。ちゅ、とリップノイズが数回響き、それからは艶やかな厭らしい水音に変わってゆく。
どんどんと互いの息使いが荒くなる。



私の人生を賭けて、今この関係と彼を失うことを恐れている私はやっぱりギャンブラーには向いてないのだと思う。


ならば、いつか私がまだ顔も知らない誰かと一緒になるまで。彼が私に飽きるまで。


彼に与えられる快楽に身を埋めながら、私はひたすら願った。



それまで、この野良猫が私の隣に眠りに来てくれますように。









いつかその日が来るまで




野良猫の隠れ家




-完-


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