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□カランコエ(一郎連載@)
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『お疲れ様でしたー!』
そう言い残して更衣室へ向かう。
今日も疲れた。はぁ、と短い息をついて私服へと着替えていく。身体も酷使すれば、頭も酷使する仕事が終わりやっと終わって明日からの休み、いや、これからの時間へ思いを馳せる。

さて、急がねば。書店がしまる前に。なんてったって今日は新刊の発売日!ああ、あの続きを早く読みたい。熱い激闘の末にどちらが勝つのか。あの子の告白はどうなったのか。新たな旅での物語。
キャラも好きだがストーリーに惹かれ、どんどんのめり込む。その感覚に快感を覚える。
現実であり得ない世界。私とは似ても似つかない主人公。感情移入、世界に入り込むことで一種の現実逃避なのだろう。いつまで経っても夢見る乙女は乙女なのだ。

更衣室から出ると、刺すような寒さに一瞬身をすくめる。吐いた息が白く染まった。
さぁ、お迎えにいきましょう。心はあったかい。
闇に染まりかけの空に消え行く自分の白い息を眺めて足を踏み出した。

─1.始めの第一歩!─


ガサリ、とビニール袋が揺れて音をたてる。
ビニール袋の中にはお迎えしたマンガとラノベの数冊が入っている。
あああああ、早く読みたい!最初は逸る気持ちを抑えていたのだが、人間は欲望を押さえつけるのは良くないよね、うん。ラノベにはブックカバーをかけてもらい、表紙は隠しているから大丈夫だ。電車に揺られながら待ちきれずページをめくっている。

自宅から仕事場までは電車は使わず、バス通勤。
新宿ディビジョンに住んでいる私は駅前の総合病院で働いている。新宿は歌舞伎町などもあり治安がいいかと言われるとハッキリ答えにくい。が、私が住んでいるのはまだ静かな住宅街のマンションの一角。中々住み心地はいいです、はい。
そんなバス通勤の私が電車でどこへ向かうのか。

私の大好きな可愛い弟たちに会うためだ。
電車にゆられ、30分かけて池袋の駅へ舞い降りる。


マフラーはしているが、手袋は手の感覚が物理的に鈍感になってしまうのが苦手であまり着けない私。
あまりの寒さに指先がかじかむ。結局冷えた手は感覚が鈍くなっている。夜の寒さに油断していた。

ガサガサと袋を揺らしながら進む。
山田家を目指して。

萬屋、と看板が見えてくる。事務所を通りすぎ、玄関にたどり着く。ピンポーン、と軽快なインターホンが響く。はーい、と可愛い声が扉越しに聞こえてきた。え、なに?可愛い。

ガチャリと音をたてて開いた扉の先には、可愛い可愛い三郎が、少し驚いた顔を覗かせた。

「あ、春ね、『さぶろー!!!寒いいいいいい!』うわぁ!!」

三郎の言葉を遮り、ぎゅううううと抱き締める。
私の声に、なんだなんだと二郎が慌てた様子で玄関にやってくる。なんだこの弟たち、かわいい。かわいさがしみる。

「ちょっと、春姐!離して!!」
『ええええ、さぶろ冷たい…何、思春期?反抗期?』

離せと言われて離すもんですか。更にぎゅうううううと抱き潰す。ぐえ、と潰れた声も可愛い。

「姐ちゃん!三郎が潰れてるから…とりあえずあがってよ。」
『じろたん優しい。優しさがしみる…』

はいはい、と笑顔で招き入れられる。
ちなみに私の冷えた手は三郎とつないでいる。
なんだかんだ嫌がってはなさそうでほっとする。かわいい。

「春姐、かわいい言い過ぎ。」
『えええ!じろとさぶの愛しさが抑えきれず口から漏れでた!!!』
「春姐、ほんとに手が冷たい。なんか飲む??」

繋いだ手を三郎からきゅっと握ってくれる。なに?もう可愛さで私を殺す気??可愛さって凶器…

「姐ちゃん、緑茶いれたよー。」
『二郎、ありがと!流石!』

ここに置いてある私専用の湯飲み。
紅茶もコーヒーも飲むけど、お茶が一番好き。
言わずとも準備してくれる二郎にほっこりする。

「姐ちゃん、仕事終わり?」
『そうだよー』
「お疲れ様。ご飯は?」
『ありがとぉぉぉぉぉ、癒し!二人に癒されてっから!疲れも吹き飛びましたぁぁ!』

二郎かわいい。がばりと抱き締めるも、いつの間にか抜かされてしまった身長に、図柄は抱きついている図。うううう、大きくなっても可愛いよ…

『ご飯は私がつくってあげようと思って。
今日は一郎はまだ帰ってこないでしょ?』

出されたお茶をすすって一息つき、私が夕飯を作ると言うと喜ぶ弟たち。二人の頭をぐしゃぐしゃになで回し、手を洗い食事の準備をする。

さて、愛しの弟たちに腕を奮いますか。




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