hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
5ページ/66ページ




カーテンの隙間から、差し込む陽射しに、朝を知る。
ゆっくりと目が開く。なんだかぐっすり眠れたような感じかする。
ふと、視界の端に揺れる黒いものが入り込んでいるのに気づく。
それは誰かの髪だった。視線を上に持っていくと、赤と緑の瞳。
思わず、ぽかんと開いた口から音が漏れる。

『ひっ…』


─5.ある日の休日の話─






悲鳴をあげる前にバっと口許を手のひらで押さえられてむぐ、ととどまる。まてまて。不意打ちは反則では?
むぐむぐと言葉にならない反論をぶつける。

「あいつら起きっから叫ぶなよ」
『……』

確かに、一郎と同じベッドで寝ているのを目撃されると困る。彼らの変な勘繰りを想像するとぞっとする。一郎至上主義の彼らに見られてなんかしてみろ。
こ、コロサレル…
でも、やっぱり腹は立つから恨めしい目を一郎に向け反論の意を示す。
するとようやく大きな手のひらから顔面が解放された。

『もう、ベッドで寝るなら起こしてくれればソファー行ったのに。』
「それこそ俺のセリフな。起こせよ。」
『起こしたもーん!!!』

しーっと指を唇の前にあててなだめてくる一郎に腹立つけど格好いいな、このやろ!

『あー、じろさぶに誤解されないようにリビング戻るね。』
「おう、朝飯作るわ。」

弟たちの目が覚める前に、とあくびを噛み殺しながらドアをあける。すると目の前にはすでに起きていた二人の姿。


お、お、
終わったぁぁぁー!!!

ドアノブを手に一時停止中の私。
一郎の部屋から出てきた私に驚いて一時停止中の二人。

「おう、お前ら今日は早起きだな。」

なんて、私の後ろから呑気な一郎の声がする。

「お、はよう、兄ちゃん、姐ちゃん…」
「おはようございます、一兄、春姐…」

「おはよう。今から朝飯作るからちょっと待ってろ。」

固まった私の横を通りすぎて二人の頭をくしゃりと撫で、キッチンへ向かう一郎。その背中に殺意わいた。いや、冗談なんだけど。



そんなこんなな中、ヒソヒソと二郎と三郎が内緒話をしだす。
「ね、姐ちゃんが…ついに…」
「春姐が、ホントの春姉に…」


な、内緒話って実は仲いいな、可愛いかよ!
ってちょっとまてまてまて。誤解しなさんな!

『ご、誤解です〜!』

半泣き状態の私の叫びが響く。

『ほんとに何もないから〜!二郎、三郎嫌わないでぇ〜』
「えっ?」
『えっ?』
「春姐、なんでそうなるの」
『だって君たちの大切な一兄のベッドを占領するだなんて…二人も一郎と寝たいだろうに…』
「いや、姐ちゃん、俺らいくつだと思ってんの!?」
『一郎ラブラザーでしょ?』
「「いや、否定しないけど!」」

しないのかよ。なんだこの2人かわいい。
てかラブラザーってなんだ、ツッコんでよ。
恥ずかしいから。


「俺が姐ちゃんのこと嫌うわけないよ。」
「悔しいけど、二郎と同じ意見だね。」
「んだと、三郎ぉ!!!」
「なんだよ、バカとおんなじ意見になるだなんて一生あるわけないと思ってたよ」
「ナ マ イ キ な ん だ よ ォ !」

なに。もうこの気持ちを表す言葉が分からない。
そして喧嘩する二人可愛い。

『ありがとう、嬉しい、可愛い、大好き!!!!』

「何、単語しか喋れなくなったの?」
「俺も姐ちゃん、大好き!」
「…僕もだからね。」

ぎゅううううううっと二人を抱き締める。
抱き締めきれないぐらいの大きな二人。
朝からこんな幸せでいいのだろうか…
私、もしかして明日死ぬの?

『あ、でもホントに一郎とは何もないからね。一郎のイタズラみたいなもんだし。』

一応念押ししていると、朝メシ〜と一郎の声がしてゾロゾロとみんなでダイニングへ向かう。
焼いた食パンと目玉焼き、味噌汁が並んでいる。
ホントになんでも出来る男だな。


みんなでご飯を食べながら今日のそれぞれの予定を確認する。一郎は午前中予定があるみたいだ。二郎は予定は特になかったみたい。三郎からは昨日、ボードゲームと映画を誘われていたから、

『よし。二郎と三郎とで午前中は映画、午後からは一郎帰ってくるみたいだしボードゲームしようか。』

そう提案すると、二郎と三郎は目を見合わせて嫌そうな顔を浮かべる。

「二郎が見れる映画とか対象年齢小学生レベルじゃない?」
「てんめぇ…!」
『ちょっと!それで喧嘩するなら、私が見る映画は決めまーす!丁度見たかったのあったんだよね〜、R15のBLアニメが映画化…』
「「ごめんなさい」」
『よろしい。』

まぁ、三郎がR15は年齢制限ムリゲーなんだけどね。


そんなこんなで一郎を見送り、3人で出掛ける。
映画のチケットを購入し、上映時間までカフェに入った。



『もう試験終わった?』
「僕は来週だよ」

期末試験の話をすると、うげぇと苦い表情を浮かべる二郎と、ケロリとして答える三郎の差に、苦笑が漏れる。

『二郎は?』
「昨日最終日だったよ。」
『そっか、お疲れ様ぁ』

よしよしと撫でると、へにゃりとそのタレ目が更に垂れる。か、かわわわ!

『三郎、は心配なさそうだね。』
「どこかの誰かさんとは頭の作りが違うからね。」
「あんだと、三郎!?」
「誰も二郎だなんて言ってないんだけど!?なぁんだ、自覚あったんだぁ」
「こ の や ろ ぉぉぉお!」
『ハイハイ、喧嘩しないの。私もバカだったよ〜』

そう言うと、疑わしいと言葉が見えるんじゃないかって位の4つの目が私を見る。

『ホントだって。興味があるものしかできなかったからね。高校では落ちこぼれだったし。高校に入ってからは遊ぶのが楽しかったからなぁ。』


楽しかったはずの高校生活を思い浮かべて目を細める。懐かしいなぁ。今はもう過去になってしまった青春。その中にまだ二人はいるんだ。若いなぁ。。。


『期末の前は、文化祭だっけ?』
「俺は文化祭。」
「僕は体育大会だったよ。
『そっか、学校によって違うんだ。』

『文化祭は何したの〜?』
「う"…」
『えっ!何々!?写真ないの!?』
「何にも言ってねぇのになんで目ぇ光らせてんの!?」
『青春の匂いがした!!!』
「どっから!?」
「二郎のとこ、メイド執事カフェだったみたい。」
『ファ!?!!?!?なにそれ聞いてない!!!』
「三郎、バラしやがったな」
『お、お写真をお恵みください〜』

手を合わせて懇願する私を断固拒否する二郎。高校生に向かってなにしてんだ。いや、でもやっぱり可愛い可愛い弟の執事姿とかそりゃ拝みたいでしょ!!?!?当然!!!

「1枚300円」
『買ったぁ!!!!』
「さぶろぉぉぉぉぉ!!!」

さぶちゃんってば商売上手なんだから…!
将来有望ねっ!で即落札する私も私…
と、三郎から携帯に送られてきた画像に目を落としかける。てかもはや落ちた。

『…っ!!!!!……っ!!!』

言葉にならない声をあげた後、テーブルに額をガンっと打ち付ける。
ま、まさか執事ではなくメイドだったとは……!!
メイドはロング丈派だけどじろたんメイドはミニがお似合いですありがとうございますぅぅぅぅぅ。

今度は額に手を当て、天井を仰ぐ。


『………生きてて、よかった………!』

仰げば、尊死……

視線を二人に戻すとドン引きしている2人。
やだわ、春ちゃんのハートは冷たい目線でズタズタよ。傷ついたハートをそのままに、三枚いただいたので野口さんお一人を三郎に渡す。

「ま、まいど…」
おい、まだひいてんのか。春のHPはもうゼロよ!
戸惑う三郎も かあいい。
二郎は恥ずか死んでる。かわいい。


『さぶろの学校は体操服はハーフパンツ?』
「え"?」

三郎の顔がさらに凍りつく。

『三郎のひざこぞうかぁ〜』
テーブルに両ひじをくっつけて置き、その手のひらに顎をのせふふふと笑う。ひざこぞうってかわいいよね。それが三郎のなんだもん、プラスどころか倍でかわいい。

『でも組体操は流石に長ズボンはくよね。だとしても膝死ぬけど。え、一番上?じゃあ三郎の可愛い膝小僧は守られたんだね…!』
「「………」」

そこ、ドン引きしない!!

友達とのやり取りや学校生活、ついでに一郎の栄光(ここは基本的に熱弁されてた)について話しているとあっという間に映画の時間になった。

結局選んだ映画はサスペンスホラー。
人間のサイコな部分と脱出に必要な謎解きとが複雑に絡まったストーリー。楽しみだ。






2021/3/29:加筆修正

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ