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□カランコエ(一郎連載@)
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人間の歪んだ愛情と謎かけにストーリーに引き込まれた。犯人は誰かと予想するも、見事に裏切られた。オタクの推理力なんてこんなもんさ。
上映が終わり、フッと劇場が明るくなる。
ああ、なんて満足感だ。久々の当たりだった。



─6,マイヒーロー─

『いやぁ、面白かった。まさかあの人がとは思わなかったね〜』
「そうだなぁ。最初はあの男が怪しいかなっておもったけど、どんでんがえされた感じ。」
「わり、ちょっとトイレ。」
「僕もいってくるね」
『はーい。』


映画がおわり、トイレに向かったさぶじろを待つ。
携帯の通知をチェックしていると、ふと画面が暗くなったのを感じる。んん?電池はまだ省エネモードになるほど減っていない。

おもむろに顔を上げると、数人の悪そうなあんちゃんたち。

ぞわり、

いつしか体験した光景が脳裏にちらつく。
いや、あの日と比べて今は昼だし、人目もある。
女に冷たいご時世、連れていかれるのはそのままでも戻ってきた二人が情報を得るのには容易いだろう。


「おい、てめぇ山田のやつらと一緒にいたよなぁ」
「あんなクソ餓鬼どもがここいらシメてるとかまじありえねぇ。」
「兄貴の金魚のフンみてぇにくっついてるだけじゃねぇか」
「あんなやつらより、俺ら下ってかぁ!?」


二人に向けられる罵声に、ふつふつと吐き気のような、モヤモヤと熱いものが腹部から喉にせり上がってくる。ぐっと片手で顔を乱暴に掴まれる。

「ちょっと顔を貸してもらおうか」


言い返したいのに、フラッシュバックする恐怖に奥歯を鳴らす。ああ、あんなに弟たちを可愛がっていても結局我が身が大事なんだ。恐怖とともに、悲しさが胸を占める。どう頑張ってもあの家族にはなれない。



本当に昼間なのかと思うぐらい薄暗い路地に連れ込まれる。案の定、助けてくれる人なんていない。
ぐっと髪を掴まれ、壁に叩きつけられる。なんなんだ。悪い奴は髪をひっぱりたがるのかよ?私の毛根死んじゃう。

「いっちょまえに女なんか連れやがってよぉ」
「どれだけ俺らが女に苦痛を強いられてるか分かってねぇのか?」
「そんな奴らが上にいてもらっちゃいつまでも変わんねぇんだよ」

『本人たちじゃなくて、なんの力も持たない一般の女によってかかるwack野郎が上にいた方が変わらないと思いますけどね』

威勢のいいセリフだが実際は声が震えて実に滑稽だ。ペッと唾を吐きつけたいところだけど、そこまでできる余裕はなかった。それに、そこまで煽っても対処しきれない。って、あらら。こんなへっぴり腰の言い返しでも煽ってしまったみたい。

「こンの、くそアマァ!!!」

ジンジンと熱く感じる頬。口のなかに広がる鉄臭さ。あー、じろさぶが来るまで大人しくしとけばよかった。痛い。でもだからといって言わせておくのも癪に触る。私の気がすまない。
殴ってきた奴とは別のやつが私に近づいてくる。

「さすがアイツらと一緒にいる女は威勢がいいな。でも、さっきから声も、足も震えてンぞ。」

可愛いねぇ。耳元で囁かれる。コイツはまだ他の奴より頭が冷えてるみたい。軽い反論に煽られる奴ではない。この中で一番やっかいかも。
太ももに感じる感触に、ぞわりと肌が粟立ったのが分かる。内腿を撫でられ、爪がたてられる。

ビィィィーーーー……


ストッキングに穴が開き、そのまま心もとない繊維は裂かれた。直に触れる手のひら。少し手汗を感じ、更に気持ち悪さを助長する。

「威勢のイイ女ほど、犯されてる時の顔がたまんねぇんだわ。」

ペロリと耳介を舐められる。ヒヤリと一筋、背中を駆け抜けた。ヤバい。は、はやく、じろさぶ…
コートのボタンを外され、上のニットをたくしあげられる。素肌を刺す冷気、ヒュー、と囃し立てる他の男達に吐き気を催す。クソ、クソ、クソ。


「てめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「誰の女に手ぇ出してんのか分かってやってンだろなぁ!?」

バタバタと荒い足音と声が聞こえた。
ああ、天使様。
男たちをなぎ払いながら私に駆け寄り、私を壁に追いやっていた男を殴って退かせる。

「春姐、遅くなってごめん。」
「ちょっと耳塞いでろよ。すぐ片付けっから。」

私の乱れた姿を傷ついた顔で見る二人。つい力が抜けて、へたりこむ。ふわりと二郎がジャケットを私にかけてくれた。その暖かさと山田家の匂いに、ポロリと、堪えていた涙が落ちる。男達に対峙していた二人には気づかれていないだろう。


キィン、とヒプノシスマイクが起動する音が響く。


「「ブッ殺す!!」」


私は自分の耳を、彼らの声が私の脳に干渉しないよう必死に塞いだ。





どれくらい経っただろう。恐怖からか、耳も塞ぐと目も塞いでしまっていた。ゆっくりと目蓋を上げると複数人の男が倒れている。肩で息をしている二人。丁度、終わったのかな。耳ををふさいでいた手が緩みかけたその時、

「2度と踏めねぇブクロの地上!
何度踏んでやろうかきたねぇそのツラ!」
「さっさと出てけ俺らの街から!
どこにもねぇお前の入る墓!」


響くrhyme
よ、よかったまだ耳から手を離してなくて。
ほんの少しの声で軽い頭痛がする。モロに食らってたらどうなってたか。
二人が私に振り向く。なんで君たちが泣きそうなの。


「ご、ごめんね姐ちゃん、俺たちが離れたばっかりに…!」
「……」
『ううん、大丈夫だよ。こっちこそごめんね、足引っ張って。。。』
ジャケットを返し、立ち上がる。汚いところに座り込んでしまった。パタパタとおしりをはたき、みずぼらしいストッキングを脱ぐために二人によそを向いてもらう。その間、三郎は一郎に電話してくれてたみたいだ。脱ぎ終わり、ポイと男の残骸に紛れさせる。もうストッキングと呼べないゴミなんだ、処理してくれ。

「春姐、ごめんなさい。怖かったよね。」

目が合わない三郎に心を痛ませる。ぎゅうううっと横にいた二郎と一緒に抱きしめる。

『も〜!大丈夫だってば。あのね、私、二郎と三郎が必ず助けに来てくれるって分かってたんだ。そしたらやっぱり来てくれた。だからね、大丈夫だったよ。』

二人は私のヒーローだね、と笑うと三郎は泣き出してしまった。焦った私は更に三郎を抱きしめてグシャグシャになで回す。普段ならそれをからかうであろう二郎も、何も言わなかった。






その後すぐに一郎が迎えに来てくれ、それまでに三郎の涙も引っ込んでいた。
迎えに来た一郎に、二人の勇姿を語る。
皆で家路につく。三人兄弟と並ぶと目立つようで、朝は気にならなかった沢山の視線が刺さる。

『一郎…君の弟たちはすごい。。。』
「ん?」
『だってね、すごい汗かいて、必死の形相で駆けつけてきてくれて。』
じっと私を見てくる一郎に、そのまま笑顔で話続ける。
『相手に対峙する背中なんて、すごい、大きくて。まるで、』

髪を耳にかける。

『あの日助けてくれた一郎みたいだった。』

そっと、一郎の服の裾を隠れてひっぱる。

『だから、山田兄弟は私のヒーローだよ。』

「……二郎、三郎。」
「はい!」
「何、兄ちゃん。」

二人の顔に少し緊張の色がまじる。


「よく春を守ったな、さすが、俺の弟だ」

一郎の言葉にはにかむ二人。よかった。二人の自責の念が、これで少しでもなくなればいい。言葉にせずとも汲み取ってくれ、目を離したことを叱らないで褒めてくれる一郎にホッと内心安心した。




山田家につき、着替えてくると部屋を借りる。ここに置かせてもらっている部屋着という名のスエット。パタリ、とドアを閉める。はぁ、と無意識に深い吐息が漏れた。

着替えると控えめなノックが聞こえる。終わってるよ、と返事をすると入ってきたのは一郎だった。

『一郎、色々ごめんね。』
「こっちこそ悪かった…俺らと一緒に過ごすだなんてどれだけ目立って、標的になりやすいのとか分かってたのによ。」

違う、違うよ。抵抗の1つもできない私が、あなたたちと一緒にいれることの幸せがどれだけのものか。私のわがままなんだよ。一緒にみんなと居たいって願ったのは私なんだよ。それだけの覚悟が私になかっただけ。それに歯向かうだけの力がないだけ。


『大丈夫だよ。だって、助けに来てくれるの信じてるから。いつだって、どうしたって、3人は、一郎は、私の救世主なんだよ。そんな3人がついててくれるだなんて、怖いものなんかない。』
「嘘つけ。」

へらりと軽く笑う私に、一郎は真剣な目を向けてくる。そっと私へ伸ばされる一郎の大きな手が、そっと私の髪を耳にかける。

「手、震えてたぞ」

ああ、敵わない。
動揺しているときの癖なんだろうか、自分でも気付かなかったその仕草。そしてそれを見て言い当てる一郎。

「怖かったな。」

そのまま腕を引かれ、一郎の胸に額をぶつ。じんわりと伝わってきた体温に、私の涙腺は崩壊した。







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