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□カランコエ(一郎連載@)
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無理。無理しか言ってないけど無理。
癒し…癒しが欲しい…明日は休み。
家の事なんてもういい。絶対に今日は弟たちに会いに行く。忙しさに削られた昼休みの時間に、そう決意した桧原 春。


─9,体調不良─


多忙に多忙を極め、夜勤からの休みと繋がっており、休みの日は寝て体力チャージするだけになっていた。今日は日勤からの明日は休み。2連休ではないが、癒しのない日々から脱却したい。約3週間ぶりの山田家となる。

昼休みに一郎へ今日お邪魔することを無料メッセージアプリで連絡を入れ、仕事を早く終わらすべく気合いを入れた。





のは、いいものの。
なんだか身体の節々がきしむ。朝から倦怠感はあったものの、最近の忙しさからのものだと思っていた。夕方が迫るにつれ、ゾクゾクと皮膚の表面と背筋に悪寒がはしる。職場の人に一言告げて体温計をはさむ。ああ、嫌な予感。


ピピッと音がなり、恐る恐る数字をみると、そこには38,1と表示されていた。はぁ、もう最悪だ。悪寒はまだやまない。これはまだ上がってくるだろう。
師長に熱があることをつげ、そのまま病棟拘束のDrに連絡がいきインフルエンザの検査を受ける。
発熱してから24時間も経っていないが、確実にインフルなら経っていなくても陽性が出るものは出るのだ。そう、10分待たずとも。


「A型ですね」


はい、インフルエンザ確定いただきました。
ついでに私の精神安寧も終わりが確定いたしました!ありがとう!神様ゆるさない!!



熱があることを自覚すると急にしんどくなるのはなんなんでしょうね?ただただ悪化しているのか、精神的なものなのかは分からない。身体が重く、止まらない寒気に小さく奥歯が鳴る。

カルテ記載は終わっており、残った細かい仕事を残っている方に託し、車通勤の先輩が家まで送ってくれるとのこと。ドクターにはインフルエンザ薬を処方してもらった。あああ、もう何から何まで申し訳ない。




家についてから暖房とほっとカーペットをONにし、毛布にくるまる。全く力を緩めずに襲い来る悪寒戦慄に思わず涙ぐむ。悪寒戦慄ってほんとになったことある人にしか分からない恐怖と訳もない不安がある。だからといって対処法もなく、解熱剤も悪寒が止まらなければ効き目がない。 ただただ熱が上がりきるのを待つしかないのだ。


身体が弱っているときって急に孤独を感じるのは何故だろう。今日は弟たちに会える、と思っていたから余計に感じてしまうのかもしれないけれど。














ふとめがさめる。身体は熱く、頭がほわほわと浮いてる感覚。汗もかいており、くるまっていた毛布は足元にかたまっていた。熱が上がりきって楽になったのだろう。家に置いていた滅多に使わない体温計を引っ張り出して熱を測る。うん、39,7だ。ごそごそと鞄を漁り、常備している解熱鎮痛剤と、処方してもらった吸入薬を吸う。時計を見ると20時を過ぎた頃。病院を出たのは17時頃だった記憶。


ピコピコと、視界の端で光るものがみえた。
携帯の通知ランプだ。携帯のロックを外すと、メッセージが何件か来ていた。職場の人から大丈夫か、お大事にという要件、と、

あ、あああああ!
あまりの身体のつらさから連絡するのを忘れていた。一郎から、駅についたら迎えにいくという通知、その後に遅くなりそうか、と続いていた。

『えっ、と、』

携帯の画面をタップして返事を打つ。

《インフルエンザにかかっちゃった。
感染したくないし、今日はやめとくね。》
《連絡遅くなってごめんね。》
《また復活したら遊びにいきまーす!》

『これでいいかな。』

熱が高いことはあまり感じさせないよう文面は明るくしてみた。正直、携帯の画面を見ているのがツラい。汗も気持ち悪いが、明日の朝シャワーを浴びよう。食欲もない。


忙しさにかまかけて食事を面倒くさがったり寝不足だったりで免疫力が落ちてしまっていたんだろう。自分の体調管理が杜撰だっただけだ。分かってはいるが、今このコンディションで食事を作る気力はないし、熱が下がってからでも遅くはないだろう。ホットカーペットを切り、普通に布団に入った。汚いけど、もう全部後回しだ。元気になったら洗濯します…。

言い訳を重ねながら、熱で浮かされた体を休めるべく瞼を閉じた。









アラームをかけずに差し込んだ日の光で目が覚める。うん、大分楽になった。体温計で再び熱を測ると37,3と表示が出る。悪寒もないし、身体のだるさは残るものの、なんとか夜には解熱しそうだ。

ピンポーン

顔を洗い歯磨きをしていると響くインターホン。あらやだ、寝起きなんだけど。
玄関モニターを見てみるとまさかの人物。



『一郎!?』
「おー、無事か?早く開けてくれ、さみぃ。」



まってまってまって。女捨ててる現状をそのままさらけ出すことは流石に!困難を極めます…!
バタバタとそこらに散らかしていた洗濯物を脱衣場に放り込み、寝起きのボサボサの髪を手櫛で整えて、着替えたいけど待たすのもなんだ、もう迎え入れよう…って、いや突然来る一郎が悪い!女には準備ってもんがあるのよ!そこで待ってろ!


とは思いつつもやっぱり寒空の下で待たせるのも悪いなと思い、最低限(ほんとのホントに最低限!)準備をして玄関を開ける。顔を合わせた開口一番に文句をたれる。
『連絡してよ…』
「したところでおめーは大丈夫で済ますだろ。」
『……感染るよ…』

言い返せないけども。てかそりゃあ感染る可能性あるのに呼ばないでしょうよ。マスクもなにもしてない一郎に呆れて、玄関においてある個包装のマスクを押し付ける。念には念を、私も着けた。


がさりと手にもったビニールの音をたてながら一郎が家に上がる。私は良く一郎の家にお邪魔するが、一郎が家に来るのは片手で足りるほどだ。そりゃそうだろう。別のディビジョンのトップが歩いていれば何事だってなるわ。

「飯は?」
『これから…』
「どーせ昨日もろくに食べてないんだろ。」
『だってしんどかったんだもん。』
「そーだろうけどよ、頼れよ。」


わしわしと頭を撫でてくる一郎。
ごめん一郎、私、今汚いよ。口には出さないけど。


『ありがと…』
「おー、素直だと可愛いぜ」
『なっ!?ばーか!!』


からかってくる一郎に肩パンをいれる。

「それはかわいくねー」
『一郎が悪い!』

なにより心臓に悪い!

「飯準備すっから座っとけよ。」
『かたじけない…』

返事の代わりにまたポンポンと頭を軽く叩かれる。今度は反撃せずおとなしくリビングに座って待つ。弱ってるときに、優しくされるのはやっぱりくるなぁとしみじみ感じた。






そしてでてきた雑炊に感激するまであと十数分。




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