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□カランコエ(一郎連載@)
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家族。それって一体何なのか。血の繋がり?書面上での戸籍の繋がり?挙げたものの繋がりがなくても、家族と呼べる関係だってある。多分、言葉で表せないものが沢山つまっている関係なんだろう。


─14,家族─

私は一人暮らししているしがない看護師。兄弟はおらず、一人っ子。両親は健在だが母子家庭だ。しかしその母ともほとんど連絡をとっていない。私も彼女もそれを望んだため、お互い納得している形だった。




カツカツとヒールがコンクリートと不細工な音を奏でる。今日は平日の夜、それに週はじめの月曜日で帰宅ラッシュも少し落ち着いている夜が深い時間帯。とはいっても、池袋の街は怪しさを纏い眠ることはない。夜中に近い時間の池袋は物騒だということで、改札を抜けると迎えに来てくれている見知った顔を見つけて駆け寄る。

「お疲れさん。」
『お迎えありがとう、一郎。』


肩を並べ、山田家へ向かう。4月も中旬、春が来たというのに夜はまだ肌寒い。新人の部屋を受け持つオリエンテーションについていたため、少し遅くなったが日勤終わり。2連休とのことで山田家にお邪魔することとなった。

『あ、コンビニ寄っていい?』
「おー、飯は準備してるぞ?」
『うん!もちろん一郎のごはん楽しみにしてた!、じゃなくて。新作のアイスが出てたのずっと食べたかったんだけど、タイミングなくて。これなんだけど、』

携帯でその商品の紹介ページをみせる。出てたの知らなかったなどと話ながらコンビニにたどり着く。四人分丁度あったため買って再び帰路についた。ガサリと片手にビニールを持つと、なにも言わずにかっさらっていく一郎にきゅんとした。

『ありがと。』
「おう。」

すると、並んでいて一番近くにあった手と手がふれ、繋がる。ひ、ぇ!?まってまってまってまって。急に繋がれ、ふれあう手の平に熱が集まって手汗!手汗が!

あばばばばばと混乱する心臓と脳みそを冷却するためにか口がよく回るようになる。前季のアニメの話を始める。きっと、多弁になった私に一郎は気づいているんだろう。くそう、イケメン許すまじ。


『あの声優さん、今回が処女作とか言ってたけどかなりの有望だよね…こう、感情がすごいはいってて引き込まれた…』
「わっかるわ!しかもあの戦闘シーンで…」
『ストーリーも、最初はありがち設定かと思ってたんだけど』
「おー、俺もそれ思ってて。」


繋いだ手には一切話題に触れず、会話も足も進み、家に近づいていく。心臓には悪いが、もう少しこの時間が続けば、なんて。家にたどり着けば鍵を取り出すために手が離れる。ひやり、と外気に触れた掌に寂しさを覚えた。


リビングには人はおらず、きっと二人は各々部屋で過ごしているんだろう。

「ただいまー」

と思っていれば一郎の鶴の一声で、おかえりー!と部屋から出て来る二人。なに、可愛い、天使?

「あ、姐ちゃんも来てたんだ、おかえり!」
『ひぇぇぇぇじろたん可愛い大好きありがと!』

おかえりってなんだ。ここは私の帰る家だったのか。そうかここがエデn…ニヘニヘしてると、冷たい視線が突き刺さってくるのに気付き、そちらへ目を向けると三郎がいた。か、かわいい。

「春姐、おかえり。」


『…ただいまぁ。』

天国には天使がいる。














春が、風呂に向かった。そのままビニール袋の中身を冷凍庫につっこみ、飯をあっためてやる。

「ねぇ、兄ちゃん。」
「あ?なんだ、二郎。」
「…姐ちゃん、おかえりって、言ってほしくないのかなって。」
「……」
「春姐、いつもおじゃましますっていいますし、ただいまって言うとき、変に間があったりして…」


出会ってから大分経つし、何度だってこの玄関を抜けてきたが、ただいまというのはまだ躊躇いがあるようだ。それは兄弟みんなが感じていたこと。

「ばーか。あのおめぇらバカな春だぞ?嫌なわけじゃねぇだろ。
……遠慮、かもな。」

家族と、他人。そういった見えない線引き。


「お前たちがおかえりって言い続けりゃ、あいつも慣れるだろうよ。」
「うん、そうかな。」
「分かりました。」


兄弟の中で、これからは春にはおかえりというルールが追加された。












シャワーを浴びて、湯船につかる。
おかえり。おかえりだって!!!
語彙力飛んでった!!
バシャバシャと浴槽のお湯をテンションを表すかのように跳ねさせて年甲斐もなく一通りはしゃぎおわり、ふぅーっと深い息をはいて心落ち着かせる。




冒頭にもあったが私は母親との折り合いが悪い。父とは離婚してからの動向を全く知らない。女尊男卑の社会で生活している私たち。母と父の立場は母の方が上だった。中王区の行政の下の方だが、そこに母は所属していた。

その立場は徐々にエスカレートし、父への暴言暴力が始まった。ついにはDVへと発展。堪え忍んでいた父だが、長くは続かず母から逃げ出した。女の私には優しかった母。そして女性というだけで娘をも恐怖した父。

いとも簡単に崩れ去った家庭で、私は家を出る決断をしたのが中学生の頃。看護師になるため、私は普通の高校ではなく高専に通うことを決断したのだ。そして、3年制の専門学校に通う子達より一年早くの就職となった。

家を出たいと話をしたが母は断固と拒否したがそれをさらに私は断固拒否。恥さらしめ、家から出たことを後悔すればいいと罵られ、中学卒業を機に寮へ入り、勘当さながらそのまま現在に至る。


中王区と関わりがあったことは、卒業してから誰かに話すことはなかった。この家族関係も、ずっと。
兄弟もいなかった私は、あまり家族というものを知らず過ごしてきて、患者の家族をみたりして、こういうものなんだなとぼんやり感じたりていた。
もちろん、山田家の兄弟関係も見てきた。背景には色々なものが隠されていようと、家族だというだけで見えない絆があるのが分かる。



おかえり。



その一言が、どれほど嬉しいか。
私の居場所であってくれるのか。


その反面、さぁっと家族と他人の線引きが足もとに見えてしまう。こんな、私が、ここに、いてもいいのか。



ただいま。



笑って返せる、その日まで。







2021/4/1:加筆修正
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