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□カランコエ(一郎連載@)
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H歴。武力での戦争を禁止し、言葉で奏でるマイクを通した力での勢力争いとなったこの時代。

女が治めるこの時代に、女には干渉できない争い。



─15,干渉できないセカイ─



昨日、山田家に一泊し、今日は早起き。なぜなら、今日は平日のため二郎と三郎にお弁当をつくってあげよう作戦を決行するためだ。

顔を洗って、さっと見れる程度に化粧をする。三人にとってはすっぴんなどはもう見慣れたもんだろうけど、そこは一応女子なので。




ふんふんと鼻歌をこぼしながら、お弁当を詰めていく。一人暮らしだと料理もあまりせず適当に済ましてしまうため、ここ最近は山田家で腕を振るうことが多い。時間があるとき、そして食べてくれる人がいる時の料理は楽しいのだ。




とはいえ料理には時間がかかるもので、すぐに時間は経過する。

「おはよう、春」
『おはよう、一郎』
「はやいな」
『ふっふっふ。私には私の考えがあるのだよ。』

あらかじめ、一郎の今日予定はオフだと聞いていたのでお弁当サプライズは二郎と三郎の二人だけ。急な依頼があれば、一郎も出ていかないといけないのだろうけど。


「おはようござきます、一兄、春姐。」
「おう、おはよう三郎」
『おはよう、さぶろ!
今日もかわいいスイートエンジェルだね!』
「朝からそのテンション無理すぎるんだけど。」
『あげてこう、そのテンション!今日だけ!』


みんなより少し早めに起きているせいか、一郎がかっこよくて三郎が可愛すぎるせいか、私のテンションは寝起きのテンションよりワントーン上になっている。朝から相変わらずの冷えた目線にさらされるも私のテンションは下がらない。これが愛ってヤツか。

『三郎、二郎起こしてきて〜』
「なんで僕が。」
「三郎、そう言うなって」
「…わかりました。」

はぁ、とため息をついて二郎を起こしにいく三郎。かわいい。しばらくするとわーわーぎゃーぎゃーと二人の部屋の方で騒がしくなる。仲良きことはよきかな、よきかな。




喧嘩しながらリビングにやってきた二人を一郎がゲンコツでその場を納め、トーストとスクランブルエッグ、サラダといった朝食を並べた食卓をみんなで囲む。


二郎はのろのろと学校の支度をし、三郎は前日に準備を済ましてゆっくりとした時間を過ごして家を出る時間に。見送りの玄関先で、今朝腕によりをかけて作成をしたお弁当を渡す。


「姐ちゃん、さんきゅ!」
「ありがと、春姐。」

はぁ〜!なにもう無理かわいい。二郎はへにゃり、とワンコ顔で、三郎はちょっとぶっきらぼうにはにかんでお礼を言って学校へ向かっていった。あまりの二人の天使レベルに玄関で両膝をついて崩れ落ちていると、呆れた一郎が私を回収する。ズルズルとリビングに連れてかれた。


さて、二人を送り出せばコーヒーを入れてゆっくりと今日の予定を話し合う。

「映画、こないだ公開だったよな、」
『ああ、そういえば!入場特典なんだっけ?』
「んー、今週は、と。」

携帯で調べてランダム色紙とのことでじゃあ行こうと映画に行くことは決定。あとは新巻探しに本屋に行こうと出かける。

お出掛けするのは分かっていたため、この間買ったワンピースに袖を通し、お出掛け用に少し化粧直しして毛先を少し巻く。


「おお、初めて見る服だな。」
『そー!こないだ買ったばっかりなんだ〜。』

へへへ、と笑うとくしゃりと頭を撫でられる。

「よく似合ってんな。」
『〜っ!ありがと!』

くっそ!こっちはセットしたんだよ!
いーっと不満の顔を向けてから、そっぽ向いて手櫛で髪を整えてほらいくよ、と促した。
照れ臭いものの、褒められて嬉しいのは嬉しい。
ただ恥ずかしいだけで。




アニメ化していたものの劇場版ということでその作品について話をしながら映画館へ。ポップコーンとドリンクを買い、劇場内へ。映画が始まる前のこのワクワクドキドキ感はいつも楽しい。予告を見ながら、これはみたい、気になる、と小声で話ながら、ついに劇場内の暗さがさらに深まり、映像が始まるとピタリと会話は止んでスクリーンに意識が飲み込まれる。




佳境も越え、終盤へ向かう途中。目線は画面そのままに、おもむろにポップコーンへ手を伸ばす。すると、ちょん、と隣に座る一郎の手がぶつかった。
一郎もポップコーンに手を伸ばしてたんだろう。
そ、と目線を隣に移すと、向こうもこちらを向いたようで目が合う。暗い中で画面の明かりで微かに照らされた目が静かに細められ、顔に熱が集まるのがわかった。直ぐに目線をスクリーンに戻し、ポップコーンを口に詰め込んで騒ぐ心臓を落ち着かせるようにストーリーに集中する。くそ、暗がりで薄明かりに照らされたイケメンの破壊力はんぱない。


そのまま本屋へ向かい、最近開拓したオススメ本や、共通で読んでいる漫画の新巻をそれぞれ買い、昼食へ。最近の私の仕事の近況や、一郎の変わった依頼の笑える話、弟たちの話で盛り上がり、今日のお弁当サプライズはうまく行っただろうか。








昼食を終えるとプラプラとショッピングモールを歩いて帰宅する。


家に入る前にポストチェックをすると、チラシ数枚と便箋がひとつ。便箋をみた一郎の目が、鋭くなる。それには重要、と赤字で印字され中王区の押印が押されていた。そのまま無言で、一郎と家にもどる。

『おじゃましま「おかえり」…ただいま。』

え、何?一郎からおかえりと言われてポカンとする。ワンテンポ置いて、返事をするとまたくしゃりと頭を撫でて先にソファーに向かいテーブルの上に便箋を投げる一郎。

『…おかえり、一郎。』
「ただいま。」
『手洗い、うがい。』
「へーへー、看護師さん。」
『やめてよ、もう。』

軽口を叩くと少し雰囲気が和らいだ、気がした。


手洗いうがいを済ませ、帰ってくるだろう弟たちのために夕飯の支度をはじめる。一郎は、便箋の中身をじっと確認していた。





東京には4つの大きな勢力がある。
よく知っているのは私のエンジェル達こと、イケブクロのBuster Bross、職場の知り合いの寂雷先生率いる麻天狼。
あとは名前ばかり知っているFP、MTC。


二郎と三郎が、一郎のチームに入ったことは心の中では反対したものの、彼らも男の子であり、何より一郎がちゃんと二人の力量をはかって認めたため何も言うことは出来なかった。
危険な争いにまだ未成年の彼ら三人が身をなげうつことに正直気が気でない。だけど、他人でありましてや女の私が口を挟める立場でもないことは分かっていた。




だからこそ、私の役目が明確になる。
私は、中学生の三郎、高校生の二郎、そして19歳でチームのトップでもあり家庭の大黒柱である一郎に、平凡を与える。

余計なお世話だとしても、ほんの少しでも。
彼らが彼らであれるよう。






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